天下の悪法“遺留分”を回避せよ! “How to Avoid Bad Law!”

第14回:「天下の悪法」の回避方法を考える~その6

信託法と民法との関係、これについてもあまり語られることがないので、ここで私の考えを示しておきます。

「一般法と特別法」という法律用語があります。

これは一般法の内容と異なる規定を、後からできた別の法律が定めた場合、そのバッティング部分については後からできた法律が優先するという考え方です。

例えば借地借家法は民法に対する特別法の典型で、借地や借家の賃貸借の規定については、民法ではなく借地借家法の規定が優先適用されるということになります。

では、信託法は民法に対する特別法なのか否かですが、これには様々な考え方があると思います。

何故なら、借地借家法であれば、もともと民法にある賃貸借の規定について別のルールを決めているのが明らかなのですが、信託に関してはもともとの民法に存在しない規定であり、かつ賃貸借のような特定の規定ばかりではなく、財産に関する法律行為全般に及ぶ民法と異なる規定となるので、必ずしも特別法と言い切ることはできないのです。

しかし、仮に信託法が民法に対する特別法であると言い切れるとするなら、信託法の方が明らかに民法より後から制定されているのですから、信託法が優先適用されることになり、「信託受益権の承継は相続ではない」ということで、当然に民法の規定である遺留分侵害額請求などできる訳がない、で終わる話となります。

実際、遺留分以外の部分についての現在の実務的運用を見ていますと、例えば受益者が死亡した際の手続きについては、信託契約書があれば遺産分割協議の必要なく受益者変更の不動産登記が可能ですし、信託を理解している金融機関であれば預金の名義変更手続きも相続預金とは違って戸籍などの添付を求められることもなくスムーズに行われますから、その意味では既に実務の現場では「信託は相続ではない」という認識が浸透しつつあるのではないかと思います。

ただ逆に、法律専門家の間では、まだ信託と相続の区別を理解していない者が多いのか、未だに遺産分割協議で信託受益権の配分を協議できると思い込んでいる向きもあるようで、例えば「受益者が死亡した後の二次受益者は遺産分割協議で決める」みたいな信託契約書を作ってしまっているようなので、ここでは専門家よりも一般市民の方が先に進んでいるという感じもします。

次に、信託法が民法に対する特別法であると言い切れないと考えた場合にどうなるのかということですが、ここでは生命保険を司る保険法が参考となるでしょう。

生命保険は民法には全く規定されていない独自の契約形態を作り上げ、結果的に死亡保険金の給付の部分で民法の相続制度とのバッティングが発生、最高裁の判断でもって「相続ではない」と決せられたという経緯を辿ってきており、保険法は民法に対する特別法ではなく、そもそも民法とは全く別の法律であるという認識になっています。

そうすると、もし信託法が保険法同様に「民法とは全く別の法律である」と考えた場合、おそらく民法の規定とバッティングしない部分についてはスムーズに信託法の規定が適用され、バッティングする部分については、最終的に裁判所の判断を仰ぐしかないということになるのでしょう。

それならば、信託サイドとしては、とにかく「信託は相続ではない」と理論的に説明できるだけの資料を少しでも多く作っておくことと、もっと重要なのは一般市民に「相続ではなく信託で財産承継をしたい」という声を上げていただくことが必要だと思います。

そこで障害となってくるのが、遺留分制度賛成派サイドからの反撃でしょう。

どうして遺留分制度賛成派が存在するのか、これは誤解を恐れずに言わせていただくと、次の二種類の人たちが、まだ相当数存在しているということではないでしょうか。

一つは、とにかく自分の頭で物事を考えようとしない人たちです。

私の周囲にも、二言目には「偉い先生の本に書いてある」と言う専門家が少なからず居りますが、彼らにはまだ教育の余地があると思うのです。

問題は二つ目の勢力、要するに遺留分制度がある方が儲かるという人たちです。

具体的に誰ということは敢えて申しませんし、彼らの中にも善良かつ健全な考え方をしている人も多いというのも事実ですが、私自身も何度か彼らの「本音」として、「遺留分制度がなくなると紛争が減って我々が困る」という言葉を聞いたことがありますので、かなり根の深い問題ではあると思います。

しかし、彼らとて国民の多数が困っている、迷惑しているという声が大きくなってくれば、まさに50年前のアメリカでノーマン・デイシー氏が巻き起こした「信託革命」の時のように、それに対して敢えて逆らうことは難しくなってくるでしょうから、その意味でも遺留分制度の問題点を一人でも多くの人に知っていただきたいと思います。

次回は、遺留分制度に廃止に向けての法改正提言を行いたいと思っています。

※私自身も国家資格者の端くれの一人ではありますが、もちろん国家資格制度は国民が相談すべき相手を選ぶ際の客観的な基準の一つとしては有用ではあるものの、一方では「利権」を生み出してしまう構造であることは否定できません。

特に「業務独占」と呼ばれている、「〇〇に関する業務は〇〇士以外の者が行うと法律違反になります」という制度は、日本国民が無知で何も情報を持っておらず、国の言う事に黙って従うしかなかった時代ならともかく、現代においては既に時代遅れであると私は思います。

その意味では、私が民法の相続制度を否定しているのは、自らの国家資格を否定しるのと同じ理屈ということになってしまうのですが、私は自分の利権よりも国民全体が大事と思っていますので、国家資格者の方々は悪しからず。