天下の悪法“遺留分”を回避せよ! “How to Avoid Bad Law!”

第11回:「天下の悪法」の回避方法を考える~その3

いよいよ、生命保険と並んで、天下の悪法・遺留分を回避するための切り札ともなるべき信託の登場です。

しかし、日本人は生命保険は大好きで、既に随分と普及していますが、現段階において信託はまだまだ全く普及していない状態と考えても間違いないと思います。

その原因は数々あると思われるのですが、最大の要因の一つとして、法律の専門家が信託の本質をまだ理解できていないという問題があります。

と申しますのは、連載小説「第10~12回の総括」という部分で説明しました小泉構造改革によって英米法の観念が我が国の法制度に持ち込まれるまでの我が国における信託は、専ら「金融」のための制度として設計されており、信託法はプロである信託銀行や信託会社を規制することを主眼に置いた法律になっていたため、一般市民が信託を活用して個人の財産の管理や承継に役立てようとする発想が全くなかったことから、未だに法律の専門家の間に戸惑いや誤解、思い込みがあるのではないかと思うのです。

実は、そもそも「信託とは何?」という、信託法で言えば第1条第2条あたりの解釈からして、専門家の間で統一的な見解が出されておらず、そのように根本的な解釈からして不安定な法律が存在するのは、おそらく我が国の法律史上でも類を見ない珍しい現象なのではないでしょうか。

まぁ、法律専門家での認識の違いを議論するのは別の機会に回すとして、いろいろな説があることを踏まえた上で、まずは生命保険の時と同じように、信託の仕組みを簡単に説明しましょう。

登場人物は、委託者、受託者、受益者の3者、そして信託の終了が前提であれば残余財産帰属権利者が、当初受益者が死亡した後も信託を継続したい場合には二次受益者がプラスされて4者となります。

通常の信託では、少なくとも設定段階では委託者と受益者は同一人物であり、さらに委託者と受託者が同一人物である「自己信託」という形も認められているなど、他の契約と比べてバリエーションは多くあります。

委託者は受託者との間で「自分の財産を信託財産として管理してくれ」という契約(自己信託の場合は契約とは呼びませんが)を行い、信託財産とする財産の名義を受託者に変更します。

そして、信託契約の中に、信託財産の管理方法や受託者の権限などを記載すると共に、信託が終了した際に財産を取得する残余財産帰属権利者や、自分の次に受益権を取得する二次受益者となるべき人を指定したりします。

何だか生命保険契約と似ていますね。

それもその筈、実は信託と保険は同じような起源で発生し、同じような歴史を辿ってきている、いわば「義兄弟」のような関係にあるから、似ていて当然なのですよ。

では、ここで問題です。

仮に親が委託者兼受益者、子が受託者兼二次受益者とした場合、親の死亡を原因として子が受け取った受益権は「相続財産」になるでしょうか?

実は、この問題は、まだ正面から訴訟で争われたことは一度もない、まさに未知のテーマなのです。

現在のところ、いわゆる「お偉い先生方」は、おそらく信託受益権も相続財産になると思うので、遺留分請求もできるのではないですか?くらいの認識しか持っておられないようです。

しかし、既にお感じになっていると思いますが、信託契約は生命保険契約と非常によく似ており、現に相続税法では生命保険と同じく「信託財産は、みなし相続財産である」という条文を置くことで相続税を課税していることから、少なくとも税の世界においては信託受益権は生命保険の死亡保険金と同様に、民法上の相続財産ではないと見ているのが明らかなのです。

また、信託契約は委託者が生前に行うもので、ここは諸説あるとは言え、少なくとも財産は委託者の手を離れて受託者の管理のもとに置かれることになりますので、これを民法上の所有権と同じと見ることには無理があると思われます。

そして、現実にアメリカでは、ノーマン・デイシー氏の活躍の成果で、信託財産については民法の制度である「Probate(検認制度)」の対象にはならないことが確定しているのです。

ということで、深く考えることなく「信託受益権にも遺留分請求ができるのでは?」と考えている人たちに対して、どうして?どうして?と突き詰めて行くと、最終的には裁判所の判断を待ちましょう、という結論になってしまいます。

さて、日本の裁判所は、どのような判決を出すのでしょうか?

これは法律の専門家の問題というよりも、多くの国民の声次第なのではないでしょうか。

親不孝者やズルい人間にばかり味方する遺留分制度はおかしい!

一人でも多くの善良なる国民が声を上げていただければ、善良なる裁判官は必ず善良なる者を勝たせてくれるものと私は信じたいと思っています。

次回は、信託法が明らかに民法とは異なる規定を置き、異なる発想でもって作られているという事実を説明したいと思っています。

※私は生命保険の専門家向きのセミナーでは、よく「生命保険と信託とは義兄弟だ」と言っており、とても受けが良かったのです。

しかし、言葉の受けが良いということは、参加している人たちが「知らなかった」ということでもあります。

よく「日本の制度は縦割り」と言いますが、まさに専門家の世界も縦割りそのものでして、自分の専門分野以外には全く興味を示さない「スペシャリスト」が多過ぎ、知識が狭いために起きるミスリードも少なくないと思います。

これには国家試験制度の問題もあり、実際に一人の人が全ての分野の知識を持つことは不可能だとは思いますが、相談者は本人が気付かない部分も含めて、多種多様な悩みを持っているのですから、せめて自分の専門分野以外の専門家と連携するくらいのことはして欲しいと願うものです。