~歴史体験ファンタジー~ 田和家の一族

第4回

エピソードⅠ ~令和2年:田和家編パート1~ その2

令和2年4月

田和今朝蔵死去から10日後

健人と法男が、圭司一家の住む、亡父名義の自宅で圭司と対面している。

法男は田和家とは何の関係もないが、見かけが怖そうなので、訳も分からないで同席しているような感じである。

母の景美子は少し離れた席で、健人の顔が見えない方向を向いて座っている。

健人の正面には、10日前に亡くなった父の遺影と祭壇があり、線香の香りが漂っている。

健人が、一枚の書類を手に、圭司に対して大きな声でがなり立てる。

「お前には分からないと思うが、これが遺産分割協議書という法律的な書類だ。母さんはボケちゃってるようだから外すとして、本来なら長男の俺が親父の遺産を全部貰うのが筋だが、とりあえず次男のお前にも、遺留分ってやつに配慮して、4分の1だけ渡してやることにしたから感謝しろ。この家には住んでいてもいいが、今月からは俺に4分の3相当の家賃を寄越せよ。会社は俺のものになるけど、社長の座は保証してやるから、俺の会社のためにこれからも一生懸命働くんだ。とにかくこの書類に、お前と母さんの実印を押せ。」

圭司は、あらかじめ親田愛子行政書士から対応を教わっていたので、落ち着いた口調で答える。

「父さんは遺言書を遺していたので、遺産は遺言書に書いてある通りに分けることになるんだよ。それに母さんはあんな状態だから、印鑑なんか押せないし。」

健人は大きな声で怒鳴る。

「そんなこたぁ関係ねぇんだ。遺言書なんてもんより我々相続人三人が合意したことが優先だってことは、法律の世界の常識だぞ。俺は法学部出てるんだからな、お前ら無知な庶民とは違うんだ。そうだろ法男?」

仏壇に手を合わせていて、急に話を振られた法男は戸惑って、つい本当のことを口走ってしまう。

「お前、中退だろ。」

健人が気勢を削がれた機を捉えて、弱気な圭司だが、何とか抵抗を試みる。

「親父が元気な頃から相談してた親田先生っていう行政書士さんがいるから、まず先生に相談してみたいので、その書類を置いて、今日のところは帰ってくれないかな。ほら、母さんも怖がってるみたいだし、父さんの遺影も悲しそうな顔してるし。」

両親の話を出されても、気を取り直した健人の勢いは止まらない。

「何が行政書士だ。こちらにおられる蒲池先生は、司法書士試験を15回も受験しておられるのだぞ!」

法男の心の声「さっきの仕返しかい。」

「でもやはり相続というのは難しい法律の問題だから、専門家の親田先生に相談させてくれよ。そうですよね、蒲池先生。」

健人は逆上する。

「うるさい!じゃあ、先にその遺言書ってのを出してみろ。俺が破り捨ててやるから。」

健人は圭司が持っている遺言書らしい書類に手を掛けようとする。

本当は心優しい法男が「乱暴はよせ!」と止めに入る。

その時、母の景美子が振り返りざま、健人に向けて大声で怒鳴った。

「このタワケが!!」

その瞬間、真っ赤な閃光があたりを包み込み、世界の全てがストップしたかのように見えた・・・。

(つづく)