~歴史体験ファンタジー~ 田和家の一族

第3回

エピソードⅠ ~令和2年:田和家編パート1~ その1

令和2年2月

田和圭司が親田愛子行政書士事務所に電話している。

「大変なことになりました。父が仕事中に倒れて救急搬送され、意識不明の状態になってしまったのです。会社の方は専務の私が何とかストップさせないで続けることができると思いますが、父が万が一の事態になった時、どうしたらいいのか分かりません。実は、母も先月くらいから認知症が始まったみたいで、一人では何もできなくなってしまい、私の妻がずっとお世話をしているという状況なので、一挙に不幸が重なってしまった感じなのです。

遺言書ですか?幸い、父から銀行の貸金庫に保管してあると聞いておりますから、いざという時に取り出すことはできそうですが、確か税金の関係で半分を母にしたと言っていましたので、兄が理不尽な事を言ってきた時に大丈夫なのか、とても不安です。」

その日の夜

田和健人が、安い居酒屋で、大学時代からの友人であり、15年以上も司法書士試験に受からないまま今もブラブラしている悪友・蒲池(かばち)法男(のりお)と話している。

「ちょっと小耳に挟んだんだけど、どうやら俺の親父が倒れたらしいんだ。」

「そりゃ大変だ、すぐに行ってやれよ。」

「いや、知ってのとおり、俺は親父に勘当されてるからな(笑)、そうもいかんのさ。」

「でも、会社が大変になりそうで気の毒だな・・・。」

「まぁ、親父には悪いんだけど、会社も儲かっているみたいだし、結構立派な二世帯住宅が親父名義になってるから、待ってれば俺にもやっと、まとまったカネが入ることになるんだよ。」

「お前には随分と遊ぶカネを貸してるけど、亡くなった人のカネに期待するってのも抵抗があるなぁ。それに、会社は弟さんが継いでるんだろ?弟さんにも申し訳ないな。」

「そんなことは構わねぇんだよ。それに、何だか最近、民法が改正されたらしくてな、親父が死んでからすぐに不動産の相続登記をすれば、もし変な遺言があったってブッ飛ばせるらしいんだ。司法書士の資格はないけど、登記はお前に頼むことにするからな。」

「そうか、民法改正なんかあったのか。知らなかったな。俺の教科書は古いからなぁ。今年も合格できそうにないな。」

「それに遺留分の制度も改善されてて、今までみたいに面倒な裁判なんかしなくっても、要求したらすぐに現金で払ってもらえるんだって。」

「本当か? 現金で貰えるなんて、聞いたことないけど。」

「いや、大丈夫なんだ。それにしても親の財産を兄弟が平等に分けるってあたり、ナポレオンがフランス革命の自由・平等・友愛の精神で作った民法を大事に守っている日本の法律は素晴らしいよな。」

「大学で、その講義だけは一緒に聴いたから、そこだけは覚えてるんだな。」

「しかし、俺のために会社の株の値打ちを上げておいてくれた親父と弟には感謝だよ(笑)。」

(つづく)