~歴史体験ファンタジー~ 田和(たわ)家の一族

第1回
プロローグ1
令和元年10月
東京下町の某繁華街にあるガールズバー。
一人のだらしなく太った中年男が、咥え煙草の煙をもうもうと吐き出しながら、カウンターの中の女子大生らしい女性、水越春奈(みずこしはるな)に対して、一方的に喋っている。
春奈は他の客と掛け持ちなので、適当にあしらっているのだが、男はそのことには全く気付いていない・・・。

「俺の名は田和(たわ)健人(けんと)。42歳独身だ。鎌倉時代から続いている、由緒ある家系の長男さ。
田和家のご先祖は、モンゴル襲来の時に大活躍して、鎌倉幕府から褒美を貰ったらしいんだ。」
「へぇ~、そーなの~。」
春奈は全然気のない返事であるが、健人は自信満々に話し続ける。
「俺はC大学法学部出身。そうさ、有名な学者や弁護士を輩出している名門校だよ。」
「へぇ~、私は国立のT大学の法学部に在学中なんだけど、いつ卒業したの?」
健人はT大学と聞いて、自分の大学より格上なので、一瞬言葉に詰まる。
「いや、あの、実は入学してすぐ、バカな教授と揉めちゃってさ、中退ってことになってるんだ。はっはっは。」
「なーんだ、卒業できなかったんだ。」
「そ、そう、俺は大学なんていう小さな枠に収まり切れない人間だってことよ。」
春奈の心の声「この客、バッカじゃねぇの。」
「それでさ、俺の親父は小さな会社を経営しててさ、俺は長男ってことで、後継ぎとして会社に入ったのさ。でもよ、中小企業ってのは、なんってーか、チマチマしてて、つまんねぇよな。それで何年かして、弟に後継ぎの座だけは譲ってやったのよ。」
春奈の心の声「どうせクビになったんだろ。弟さんはまだマトモなのかも??」
「そいで、俺が会社辞める時、親父は法律も知らないくせに、勘当だ!お前には財産は1円もやらん!とか、何だか大声でほざいてたけど、今の民法に勘当なんて制度はないし、俺は長男なんだから、田和家の財産の少なくとも半分は、誰が何と言おうと俺のものなんだよ。
親父も司法書士とかと相談してチマチマやってるみたいだけど、民法の規定は絶対だからさ、何の心配もないね。」
春奈の心の声「このバカに民法、教えてやってもいいけど、ウザいから放っておこ。」
時間が切れて帰る間際、健人は突然殊勝な声を出して春奈に言う。
「ところで、今日はちょっと手持ちがないので、勘定ツケにしといてくんない?」
春奈の真剣な声「バカヤロー、遊んだカネくらい払ってきやがれ!」
(つづく)