Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第27回

第3章:トラスト 第3話

司郎は電話口から流れる里田司法書士の言葉に聞き入っている。

台湾からの報せは、音信不通だった美麗の居場所が判明したという内容であった。

情報によると、美麗は出生直後、母・桜子のもとを離れ、父と共に帰国した後、父の会社の倒産など様々な経験を経て、今の家庭状況は詳しく分からないが、とりあえずは幸せに暮らしているらしいとのことである。

「神様、感謝します。あなたを信じていて良かった。」

この時、司郎はこれで相続の手続きが自分に都合よく進むという、今の今まで願っていた下世話なことなどすっかり忘れて、見ず知らずの存在であるはずの美麗が、桜子の子が、無事に元気に幸せに暮らしていることを、純粋に神に感謝していた。

後でそれに気付いた司郎は、これまでの自分の不純な気持ちを恥じながらも、大きな流れが一つの方向に向けて動きつつあることを感じていた。

「美麗さんは、お母様の相続手続きには協力しても良いと言っておられるそうです。ただ財産を貰うかどうかについては、近いうちに、日本に墓参りに来てから考えたいとのご意向のようです。」

「来られるのですか。そりゃ大変だ、駒子に報せなくては。」

その週の日曜日、神田の教会では後継者となる予定の美鈴牧師をゲストに迎えての日曜礼拝が開催されていた。

司郎と駒子はもちろん、大川夫妻も白石裕也も参列している。

そこに見慣れない風体の若いカップルが居る。

司郎は駒子に尋ねた。

「あれは誰だい?何とも場違いな。」

男性の方は鎖がいっぱい付いている黒皮のジャンパーらしき服に、先の尖った変な形の革靴、腕には何重にもブレスレットを重ね、露出した肩のあたりには入れ墨も見えている。

女性の方は、もう夏だというのに中世ヨーロッパのようなフリルの付いた真っ黒なドレスを着て、何だかメイドさんが頭につけているような装飾品と、とても小さな帽子を被っている。

「大川社長の娘さんご夫妻ですよ。」

大川の長女である宏美とは十数年前に会ったきりであるが、印象の薄い地味な子だったので、司郎は何も覚えておらず、宏美の名を聞いて、とても驚いた。

「では、あの男がバンドマンの。」

司郎は、宏美がバンドマンと結婚したという話は聞いていたが、改めて駒子に確認してみた。

「そうですよ。彼のバンド、札幌あたりではちょっとだけ売れ始めているらしいんですけど、いわゆるインディーズですね。」

そう言っている司郎の方へ、その男性がゆっくり歩み寄ってきた。

慣れない相手に、司郎は思わず身構える。

(つづく)