Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第26回

第3章:トラスト 第2話

司郎は里田司法書士からの連絡を待つ間を、神田の教会で過ごすことにした。

「神田牧師は競馬さえやらなければ、結構立派な人だったのかも知れないな。」

そんなことを思いながら司郎がステイブル・チャーチに入って行くと、そこには牧師としての修行のためにロンドンに渡っていた神田の長女である美鈴が居た。

「美鈴ちゃん!帰ってたんだね。何年振りだろう。」

「駒子の父さま、お久しぶりでございます。」

美鈴は神田とは違って、とても丁寧で優しい言葉遣いをする。

「駒子の母さまが天国に召された時に帰ってこられなくて、本当に申し訳ありませんでした。ちょうど学校での試験の日にあたっておりましたので。」

「いやいや、素敵なお花とメッセージを贈っていただいたので、妻も喜んでいたと思うよ。」

「つい今、母さまのために祈りを捧げておりました。」

「で、牧師さんの修行は終わったのかい?」

「はい、おかげさまで、試験には合格させていただきました。この後は半年間の研修期間がありますので、来年春には帰国する予定にしております。」

「いよいよ神田牧師も代替わりか。」

と司郎が言っているところに、神田三郎牧師が現れた。

「美鈴が帰ってきてくれたなら、もちろんこの教会は譲るつもりです。私の余生は競馬一筋で!手始めに、全国地方競馬場15ヵ所巡りの旅に出ますよ。」

司郎は美鈴を交えて、偽の遺言書を出しそうになった自分を悔い改め、全てを神の思し召しに委ねようとしている今の心境を告げた。

「駒子の父さま、それで良いと思います。神は心の正しい善き者には、必ず正しく善き結果をもたらしてくださいますから。」

牧師が美鈴に交替すれば、この教会は必ず信者も帰ってきて、素晴らしい教えの場になると司郎は確信していた。

神田三郎も、競馬さえやらなければ、それなりの人物であるということも今回感じたのだが。

そこに恵庭駒子がやってきた。

「美鈴、帰ってきたのね!」

美鈴と駒子は幼稚園以来の親友である。

「駒子も立派に、父さまの会社の役員さんなんだね。」

司郎は、神田牧師のことも含めて思った。

自分たちも既に70歳を過ぎており、もう次の世代に全てを託すべき時が来ているのだ。

そして、既に次の世代の人たちは、十分に自分たちの世代のレベルを乗り越えて、未来に向けて進みつつあるのだと。

司郎は、これを機会に様々な事を整理し、今後は次の世代のために生きようと決意した。

司郎が帰宅した直後、里田司法書士からの電話が入る。

「台湾の律師から来た書類を確認しました。」

(つづく)

登場人物紹介(第25回~第26回)

・神田美鈴(かんだ・みすず 36歳)

教会の前に捨てられていた子で、本当の両親は不明のため、実子の居ない神田三郎の特別養子となり、恵庭駒子とは幼稚園以来の同級生。

現在は教会の後継ぎとして牧師になるため、ロンドンに行って修行しているが、恵庭司郎から多額の借金があることを最近知り、そのことで悩んでいるらしい。