Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第25回

第3章:トラスト 第1話

数日後、司郎は桜子の相続人調査の中間報告をしに来た里田司法書士と自宅で会っている。

司郎は、蒲池から受け取った偽の遺言書をテーブルの下に置いたまま、これを出すべきか出さざるべきか、まだ迷っている。

司郎が今これを出せば、里田は疑うことなく桜子が書いた本物の遺言書と思うだろうし、蒲池が言う通り、その後に異議を申し立てられる可能性は限りなくゼロに近い。

そして司郎は、自分名義になった桜子が遺した預貯金を自由に使えるし、もし足りなければ不動産を売ることもでき、競り落とした「シロちゃんの弟」を完全に自分のものにできるのだ。

司郎の脳裏に、香港のシャティン競馬場でシロちゃんの弟を応援する自分と、そして元気になって歩き回っている陽花里の仲睦まじい姿がよぎる。

神田牧師は「委ねましょう」と言った。

「今こそ、自分の気持ちに全てを委ねる時か・・・」

心の中で司郎がそう思い、偽の遺言書をテーブルの上に出そうとしたその瞬間、里田司法書士が新しい提案をしてきた。

「会長、美麗さんと連絡が取れないままと考えるなら、もう一つの方法があります。」

司郎は偽の遺言書を再びテーブルの下に置き、里田に言った。

「まさか、何か違法なことを?」

里田は慌てて否定する。

「私が違法なことを薦める訳がないですから、ご安心ください。」

司郎は、ほっとして、里田の話を聞く。

「裁判所の手続きを使うのです。美麗さんは何十年も前に日本を離れているのですから、美麗さんの取り分となる6分の1の財産を焦げ付かせても構わないということであれば、不在者財産管理人の選任や、あるいは失踪宣告を申し立てることなどもできると思います。」

「そんな方法があるのですか。」

「ただし、時間と費用は相当かかりますから、あくまでも会長のご判断次第ですが。」

どうやら桜子の相続手続きを完了させることは絶対に不可能ということではないらしい。

ただ、時間がかかるとのこと、今の司郎の資金ニーズには間に合わない。

再び司郎が偽の遺言書を取り出そうとしたその時、今度は里田の携帯電話が鳴った。

「分かりました。すぐ戻ります。」

里田はそう言った後、司郎に告げる。

「会長、私の事務所の方に台湾で依頼している律師(日本で言う弁護士)事務所から書類が届いているそうです。すぐに帰って確認して連絡します。」

司郎に一縷の希望が湧いてきた。

「偽の遺言書を出す寸前で良かった。やはり神に委ねるのが本当の正解だったのか・・・。」

(つづく)