Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第23回

第2章:ペディグリー 第11話

翌日、司郎は会社ではなく自宅で、一人の中年男性と話していた。

男性が差し出した名刺には「総合法務コンサルタントS級資格者・蒲池肇」と書いてある。

「恵庭はん、奥さんの相続の手続きをする方法は、おます。」

「えっ、本当ですか。司法書士は遺言書がない限り、法律上の相続人になっている台湾の人の協力がないと何もできないと言ってましたが。」

「そりゃそうどす。この方法は究極の裏技ですさかい、司法書士はんとかにはできまへんやろな。」

「裏技、ですか・・・。」

「お話を聞いた限りではでんな、この裏技を使うても、おそらく99%以上の確率で問題にはならへんと思いまっせ。」

「で、お礼は如何ほどに。」

「そうでんな、恵庭はんが相続で取りはった金額の2割でどうでっしゃろか?」

もしこの怪しいコンサルタントの言う「裏技」を使って、桜子名義の預貯金や不動産を自分の名義にできたとするならば、2割の手数料を引かれたとしても、「シロちゃんの弟」を手に入れるための十分な資金を作ることができるのだ。

蒲池は続ける。

「恵庭はんの奥さん、書道教室のセンセやったんでっか。そこに掛かってる書も、さすがに達筆でんな。いや、達筆の方がええんですわ。ええお手本や。」

司郎は意を決して言った。

「蒲池先生、よろしくお願いします。」

蒲池は何故か桜子が書いた書を何枚か持って帰って行った。

翌日、蒲池は同じ時間に司郎の自宅に現れる。

その手には「遺言書」と書かれ、封がされた1枚の少し古びた封筒があった。

「恵庭はん、奥さんの遺言書が出てきましてん。」

「えっ、そんな話は初めて・・・。」

蒲池は、右手を突き出して司郎の言葉を制する。

「とにかく出てきましたんや。分かってまんな。これは奥さんが書きはった遺言書でっせ。中身を開けたら、“恵庭桜子の全財産を恵庭司郎に相続させる“と書いてある筈でんねん。もちろん完璧に奥さんの筆跡ですわ。」

司郎はこれで初めて、蒲池の言う「裏技」の意味を知った。

「これを家庭裁判所に持って行きなはれ。裁判所は台湾の人にも通知することになってますけど、まずその人には届きまへんから、これで奥さんの全財産は恵庭司郎はんのもんですわ。娘さんや息子さんには後で適当に分けてあげはったら文句は出まへんやろし。」

(つづく)