Beautiful Dreamers
~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第21回
第2章:ペディグリー 第9話
「ドリームメイカーの2015」、司郎が思うのと同じ思いを持つ者も少なくないのか、競り値は着々と上がって行く。
司郎の脳裏には、14年前のホワイティドリームを競り落とした日の記憶がフラッシュバックする。
「佐倉さん・・・。」
既に当初の予算であった1億円を軽く超えてしまっているのだ。
司郎の表情を伺いながら、佐倉は言う。
「会長、こいつに命、賭けますか?」
司郎は黙っているが、佐倉は最初からこうなることが分かっていたようだ。
佐倉は司郎から離れて、スマートフォンを握りしめ、競り会場の前の方に出て行った。
「会長、1億5千万円で落としました。」
暫くして戻ってきた佐倉は、落ち着いた口調で司郎に告げる。
「ただし、あいつを会長の馬にするためには、幾つかの条件があります。」
司郎は放心状態で佐倉の言葉を待っている。
「あいつを買うための資金は、一旦は私が関係している香港のファンドに出させますが、会長は現金で5000万円を用意してください。残りの1億円は私が会長個人に融資しますから、3ヶ月以内にファンドから権利を買い取っていただきます。」
「分かりました、何とかします。」
「それからもう一つの条件ですが。」
「それは??」
「こいつは日本ではなく香港でデビューさせていただきます。」
「えっ、香港で??」
「香港のファンドが協力してくれる条件です。仕方ないでしょう。」
「・・・。」
考え込んでいる司郎に、佐倉はゆっくりと告げる。
「会長、会社とか娘さんたちには、このこと秘密にしておきたいのでしょ?それなら香港デビューの方が目立たなくていいじゃありませんか。こいつがデビューしたら一緒に香港に応援しに行きましょう。ヒカリちゃんには“シロちゃんの弟”が活躍している映像を送ってあげればいいんですよ。」
ヒカリちゃんという言葉を聞いて、司郎は納得するしかなかった。
「陽花里が夢で見たという外国の競馬場は、きっと香港のシャティン競馬場だったんだ。」
香港は、競馬の本場である英国との関係もあってか、現在では相当レベルの高い競争が行われており、日本の競馬界との交流も盛んになっているので、香港デビューの話も決して非現実的なものではないのである。
(つづく)