Beautiful Dreamers
~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第20回
第2章:ペディグリー 第8話
「駒子は数字に強いんだなぁ。」
テキパキと試算表の数字を説明する駒子に、司郎は純粋に感心して言った。
「これでも一応は日商簿記検定一級まで頑張りましたから。会長から追い出されている間にね。」
駒子も父に似てか、言葉に剣があるように聞こえる時がある。
「なぁ駒子、私が引退したとしたら、この会社をどうすればいいと思うかな?」
こんな話を司郎がするのは初めてだったので、駒子は戸惑いを見せる。
「何かあったんですか?どこか体が悪いとか?」
「いや、そんなのではないのだよ。鈴岡女史がそろそろ事業承継とやらを考えたらと、最近矢鱈と薦めてくれるのでね。」
「それならいいんですが。では端的に言わせていただきますね。大川社長は人格者だとは思いますし、敬虔なクリスチャンであることは素晴らしいことではありますけど、ちょっと聖書の言葉を経営に持ち込み過ぎなのではないでしょうか。白石君と渋井君は技術者なので仕方ないのでしょうけれど、専門用語ばかり並べるので私は半分くらいしか意味が分かりませんし、仕事をしているのやら、していないのやら判断が付かず、どうしても気持ちが通じないところがあります。本当は池添さんが一番・・・。」
と言い掛けたところで司郎は駒子の言葉を止めた。
「分かった、駒子の意見も十分に取り入れて先のことを考えることにするよ。結局お前に頼るしかないと思っているから。」
司郎の意外な弱気の言葉に、駒子はかえって戸惑いが深まった。
司郎が去った後、駒子は大川に報告した。
大川は落ち着いた口調で言う。
「もしかしたら、会長は神の思し召しがあって、何かを始めようとしておられるのかも知れませんね。ここは会長と神を信じましょう。」
大川の言葉は、駒子にとって予想通りではあったが、的確なのかも知れないと思った。
翌週、セレクトセールの会場、司郎は佐倉と一緒にサラブレッドの競りを見守っている。
「競りに来るのはあれ以来ですよ。」
司郎は、JRAの馬主になった直後にこの場所に来てホワイティドリームを競り落として以後は、既に出走している馬をオーナーが売りに出す「現役馬セール」でしか競走馬を購入していない。
デビュー直後に難病で倒れたホワイティドリームへの辛い想いが、そうさせていたのであろうが、そこでホワイティドリームと同期のルミエールダンサーに出会ったのである。
「次ですよ。」
佐倉が、何かを思い出して遠くを見ている感じの司郎に声を掛ける。
そして「ドリームメイカーの2015」が姿を現した。
「こ、これは・・・。」
兄・ホワイティドリームとそっくりの整った芦毛の上品な風貌、そして父・オグリインパクト譲りの逞しい体つき、まさに司郎にとって完璧な競走馬の姿であった。
(つづく)