天下の悪法“遺留分”を回避せよ! “How to Avoid Bad Law!”

第10回:「天下の悪法」の回避方法を考える~その2

日本人は生命保険が大好きな人種であると思います。

おそらく国民の大多数が何らかの生命保険に入っており、飽和状態とも言えるでしょう。

しかし、生命保険とは、実に素晴らしく、かつ極めて巧妙な仕組みであるということに気付いている人は少ないのではないでしょうか。

また、生命保険の仕組みは民法には規定されていない契約形態であり、現在では「保険法」という別の法律でもって規定されているということも、是非知っておいていただきたいです。

では、まず生命保険の仕組みを簡単に説明しましょう。

登場人物は、契約者、保険会社、被保険者、そして受取人の4者です。

通常の生命保険では、契約者と被保険者は同一人物で、受取人は契約者の相続人であるケースが多いですが、法律上では必ずしもそうである必要はありません。

ただ、例えば他人を被保険者にして殺してしまうといった「保険金殺人」という事件も以前は多々あったので、現在では実質的に規制がかかっているということですが、最近では内縁配偶者や同性婚のカップルも受取人にできる方向になっており、やや緩和の傾向にはあるようです。

生命保険では、契約者は保険会社との間で、「被保険者が死亡したら保険金を受取人に渡してくれ」という契約を行い、保険料を支払います。

契約者が支払った保険料は、もう契約者のものではなく、保険会社のものとなります。

細かいことを言うと、積立方式の保険であれば解約返戻金を請求する権利が契約者に残りますが、話を単純にするため、ここではいわゆる「掛け捨て」を前提として説明します。

そして保険会社は、契約者から得た保険料を自らの財産として運用しながら確保しておき、被保険者が死亡したら、受取人に対して保険金を支払うことになります。

つまり、被保険者の死亡という「保険事故」が発生したことで、初めて保険会社は受取人に対して「保険金」を支払う義務を負うことになるのです。

では、ここで問題です。

仮に親が契約者兼被保険者、子が受取人とした場合、親の死亡を原因として子が受け取った保険金は「相続財産」になるでしょうか?

実は、この問題は昔から数多くの訴訟で争われてきたテーマなのですが、最高裁判所は明快な答えを出しており、死亡保険金は相続財産にはならず、「受取人固有の財産」ということになるというのが確定した正解です。

しかし、相続税に関しては相続税法に特別な規定があり、「みなし相続財産」として、税金だけは一定の控除を受けた上で課されるということになっていますが、あくまでもそれは税の世界だけの話であり、法の世界では相続財産ではないのです。

つまり、生命保険は民法とは関係のない別の世界に存在している仕組みであると言えます。

そうなると、遺留分権利者が死亡保険金の受取人に対して遺留分請求ができるか否かという問題になりますが、これにも最高裁は答えを出しており、正解は「請求できない」です。

ただ、最高裁は、法制度的には遺留分請求はできないけれど、例えば遺産の大半が死亡保険金になっている場合などには、民法の「持ち戻し」の規定を類推適用して、相続財産に持ち戻される場合もある、という遺留分権利者にとって有利になる「付録」を付けているので、少々話がややこしくなってきます。

この判決が出された後、幾つかの追随判決が出された経緯などがあり、現時点で法律の専門家や生命保険の専門家の間で言われているのは「死亡保険金が遺産の6割以上を占めた場合には持ち戻しの対象となり、遺留分権利者にも権利が発生する」という説ですが、これには何の根拠もないと私は思います。

何故なら、最高裁が言った「類推適用」というものは、ある法律をストレートに適用してしまった場合、原告か被告のいずれかがあまりにも可哀そうな結果に終わるというようなケースにあたり、裁判所が特別な判断でもって別の法律の規定を「類推」して適用し、可哀そうな人を助けてあげようという、あくまでも例外的な措置であり、どんなケースでも「6割」という基準で判断されるというものではないのが原則であると思われますから、例えば本当にとんでもない親不孝者が「財産を寄越せ」と訴えてきた時、同じように裁判所が「可哀そう」と考えるとは思えません。

ただ、最高裁以外の日本の裁判所は「前例主義」ですから、どうしても最高裁が出した判例と異なる判決を出すことを躊躇しますので、それが段々と前例化している感じがありますので、注意しなければならないと思っています。

しかし、2019年7月施行の民法で、遺留分制度についても、以前よりは少し弱体化していますので、次回以降の訴訟では、もっと適切な判決が出されるのではないかとの期待も抱いています。

いずれにしても、生命保険の死亡保険金が遺留分請求に対象にはならないというのは確定ですから、これは“How to Avoid Bad Law!”に対する一つの回答となるのです。

次回は、いよいよ信託について考えてみたいと思います。

※決して高畑充希さんのファンということではなく、生命保険のポスターの代表的なものとして選んだだけなのですが、このように生命保険は世間の人たちからプラスイメージで捉えられています。

それに引き換え、「相続」という言葉は、耳にするだけでも縁起が悪く、ましてや「遺言」などという言葉は、断崖絶壁から飛び降りようとしている人が、揃えた靴の上の置く遺書と同じイメージになってしまっていますよね。

そんなマイナスイメージを変えるには相当な時間がかかると思いますが、高畑充希さんが言っておられるように「あきらめない人がいちばん強い、人生は夢だらけ」という言葉を励みに頑張りましょう。