天下の悪法“遺留分”を回避せよ! “How to Avoid Bad Law!”

第6回:「天下の悪法」の歴史を考える~その1

連載小説「田和家の一族」は、このテーマを考えるために書いた物語ですが、ここでもう一度、我が国が現在の制度になって行くまでの歴史を考えてみましょう。

まず最初に、我が国の現行民法の制定は昭和22年(1947年)ですから、まだ70年少々しか経過していません。

これは長期的な視点においては、我が国の2000年以上にわたる歴史と比べた時、本当に微々たる年月に過ぎないということを見逃してはならないと思います。

その意味からは、現在の法律だけが全てであり、絶対に正しいと言い切れるものではないということはお分かりでしょう。

そう考えた時に、まず現在の制度は歴史が浅いのですから、例えば現在の相続ルールに関しても、大多数の法律関係者が思い込んでいるように、「均分相続が絶対のルール」「それが相続秩序だ」という意見には全く根拠がないと言えるのではないでしょうか。

また、短期的な視点においては、時代によって政治体制や国際情勢なども変わり、人の生活や気持ちも変遷して行くものなのですから、法律も時代に合わせ、その都度に最適な内容のものであるべきでしょう。

その意味から、現行民法が制定された昭和22年と令和の現在との間に起きた社会の変化についても着目しなければならないと思います。

例えば昭和22年は「ベビーブーム」の始まりの年で、何と年間に約268万人も新生児が生まれていますが、令和元年には3分の1以下の約86万人しか生まれておらず、また平均寿命も昭和22年には何と50歳くらいだったのが現在では80歳を超えています。

さらに昔の人は一度結婚すれば大抵は複数の子を作ったものですし、余程の理由がない限り離婚や再婚などはせず、国際結婚などというのも稀で、ましてや近年話題の同性婚や「おひとりさま」などというものは、言葉自体が存在していなかったのですから、昭和22年と令和2年とでは、もう全く別の社会になっていると言うべきなのです。

そのように、国民は既に「別の社会」で生きているというのに、民法という国民生活の基準を示すべき法律が70年以上も前から大きくは変わらず旧態依然とした内容のままなのですから、それは国民の意識とズレてきて当然でしょう。

実は現行民法も、制定以来何度か改正されてはいます。

しかし、大変失礼な言い方かも知れませんが、立法者の方々が昔ながらの法律教育を受けてきた世代の人たちばかりであるためなのか、あるいは身分が高過ぎて一般庶民の生活の変化をご存知なかったのか、昭和22年の民法から大きく変えるという発想自体がなく、いわゆるマイナーチェンジで終わっています。

また、最近では法改正の都度に「パブリック・コメント」と呼ばれる、国民が改正法案に対しての意見を申し述べられる機会が与えられるようになり、2019年7月施行の改正民法に関しても、確かに法務省はパブリック・コメントを募集していました。

しかし、そこに寄せられた意見の大半は、これもまた大変失礼な言い方ですが、立法者である偉い先生方と同じく、既存の常識のみに染め上げられている頭の固い法律専門家からの意見だったようで、遺留分制度自体の問題点を指摘したのは私を含めてごくごく一部の少数意見として完全に無視黙殺されたものです。

そして本来は主役であるはずの国民は、実際に自分が手痛い経験をするまで遺留分制度をはじめとする現行民法の矛盾や問題点に気付くことはないのですから、パブリック・コメントで発言することなどはなく、これはもう世間の常識と乖離した頭の固い立法者や法律家の責任としか言いようがないのではないでしょうか。

立法者や法律家の頭に現在も根強く残っているのは、この連載の第2回で紹介しました。遺留分の正当性を述べている人の意見であろうかと思います。

例えば、「日本国憲法は平等と公平が原則だから、相続も平等・公平でないといけないだろ?」あるいは「被相続人が自由に処分できる財産の割合は制限されている、だから相続割合は国家が法律で決めるべきなのだ。」という意見ですが、前者は日本国憲法の趣旨を再度見直してみれば分かることだとして、問題は後者なのです。

これはフランス民法を取り入れてきた我が国の民法にとっては一つの大原則なので、ここだけは譲れないという考えもあろうかとは思います。

しかし、もっとよく考えてみてください、明治初期と令和の現在の日本人の知的レベルと情報量を。

明治の人たちには大変申し訳ないのですが、当時の国民は自分で全ての物事を決めるだけの知的レベルには達していなかったので、親切に国が決めてあげる必要があったのかも知れません。

しかし令和の人たちはそうではないでしょう。

それともう一つ、決定的な相違は、明治の相続制度は今の制度とは全く違っていたということです。

次回は、明治の相続制度について検討してみましょう。

※この肖像は「マリアンヌ」と呼ばれ、「Liberté, Égalité, Fraternité(自由・平等・友愛)」を基本理念とするフランス共和国の象徴として使われているもので、「自由の女神」のモデルでもあると言われています。

下記サイトにマリアンヌの紹介があります。

https://lecoledefrancais.net/tu-connais-marianne/

さて、「自由・平等・友愛」の象徴であるマリアンヌが今の日本の遺留分制度を聞いたなら、どんな感想を漏らすのでしょうね??