天下の悪法“遺留分”を回避せよ! “How to Avoid Bad Law!”

第4回:「天下の悪法」の具体的影響~その2

さて、父:田和今朝蔵さんは、連載小説での設定と同じく、遺言書を作っていました。

父の本当の気持ちは、会社を継ぎ、両親の世話も十分にしてくれる親孝行者である次男に全ての財産を承継させたいというもので、それは当然のことでしょう。

しかし、我が国には相続税という面倒な制度が存在していますので、田和家のように1億円を超える財産を持っていて、かつ現金は少ししか持っていない人にとっては、それを意識しない訳にはいきません。

そこで父は、「配偶者税額軽減」という制度があり、配偶者が取得する遺産に関しては税金がかからないと知って、最終的には全財産を次男に渡す意向ではありますが、いったんは妻に渡すことで節税ができると考え、遺言書では「母に2分の1、次男に2分の1」と書き、そして「妻が取得した遺産は、その次は次男に相続させる」と付け加えておきました。

しかし、この遺言は、父から母に行くまでは有効ですが、母の次を次男とする指定は法的には無効なのです。

実は、父は後でそのことに気付くのですが、残念ながらもうその時には母は認知症になってしまっており、母に新たな遺言書を書かせることはできなかったのです。

そして父は死亡します。

遺言書があるので、確かに預貯金の名義変更や不動産の相続登記もスムーズにできました。

しかし、問題はそこからです。

認知症になっている母の名義になった財産については、成年後見人を付けないと一切何もすることができず、やはり「凍結状態」となってしまいます。

特に自社株については2分の1が母名義ですから、後継者である次男は過半数の株式を持っていないということになり、新しい代表取締役社長を決めるための株主総会は辛うじて開けたとしても、やはり法律的には今後の会社の経営が難しいものとなります。

さらに、母は遺言ができないのですから、いずれ母が死亡した際には法定相続になってしまい、全財産を次男に渡したかった父の意思は反映されずに終わってしまいます。

そして、さらなる問題が、とんでもない親不孝者であるにも関わらず、民法という法律で強固に権利が守られている長男の存在です。

父の死亡を知ったら、連載小説の第4回で書いていますように、親不孝者は当然のように実家に乗り込んできて、財産を寄越せと言うでしょう。

そして遺言書で自分が外されていることを知れば、必ず「遺留分侵害額請求」をしてきます。

このケースでは総遺産が1億2000万円ですから、長男の遺留分割合は8分の1となり、とりあえず1500万円の現金が請求されることになり、さらに将来は母にも同じ請求をするでしょうから、仮に母も遺言をしていたとしても、最終的に長男は田和家の全遺産の4分の1である3000万円は必ず、しかも現金で取得できるということになるのです。

そして、もし長男が連載小説に登場する田和健人のように中途半端に法律を知っている人物なら、さらなる攻撃を仕掛けてくるかも知れません。

それは「特別受益の持ち戻し請求」です。

このケースであれば、父が生前に次男に対して贈与など何らかの利益供与をしているなら、その分は遺産に戻して遺留分を高く計算しろという権利です。

持ち戻し請求には「期限」という概念があり、あまり昔の贈与まで言い出すとキリがないので、2019年7月に改正された現在の民法では一応「10年以内」とされていますが、それ以前の民法では実質的に無期限、すなわち請求される人が生まれてから現在まで全ての贈与について持ち戻しが認められるという、とても変な、一種の嫌がらせみたいな規定になっていました。

もっとも、このケースであれば、特別受益を言われるのはむしろ親不孝者の長男の方であり、まさに藪蛇となるので言わないのかも知れませんが、注意しておかなくてはならない点ではあります。

さて、遺留分侵害額請求ですが、これも実は2019年7月に改正されており、それ以前は本当にとんでもない、まさに嫌がらせとしか思えないような運用がなされていました。

以前の民法では「遺留分減殺請求権」と呼ばれていた権利は、条文を見る限りでは、請求はできても当然に貰えるという程の強い権利とも読み取りにくいのですが、裁判所が遺留分権利者に有利な判決を連発する中で、徐々に強大な権利と化してきたのです。

おそらく、その裏側「ダーク・サイド」には、連載小説第17回の白洲次郎のセリフにあるような「GHQの陰謀」があったのかも知れませんが、それはあまりにも社会常識や公共道徳とは懸け離れたものでした。

では、詳細は次回に。

※日本人は「GHQの陰謀」という言葉が大好きみたいで、何か世の中に不都合なことがある度に持ち出すような感じがしますが、他のことはともかくとして、私が連載小説で勝手に白洲次郎のセリフにさせていただいた「財閥解体→家制度廃止→新遺留分制度制定→贈与税新設」の流れには、本当にGHQの意図があったのではないかと疑わざるを得ないのではないかと思っています。

しかし、GHQよりもっと問題があるのは、遺留分のような根本的に間違っている制度を、あたかも当然の権利のように振り回す一部の国民と、そんな輩を全力で応援する裁判所、そして「鵜飼の鵜」の如く何も考えていない法律専門家なのではないでしょうか。