~歴史体験ファンタジー~ 田和家の一族

最終回

エピローグ ~再び令和2年:田和家編パート2~

健人は、母に一喝された瞬間、真っ赤な閃光に目が眩まされ、気が付くと体がエレベーターに乗せられていたが、今度もゆっくりと上昇してゆく感覚があった。

そして、上昇が止まったと思ったら、エレベーターは前回と反対方向に横移動し、そして地面に落とされたような気がする。

「健人、大丈夫か!」

「おぅ、法男か。今度は何処だ?」

健人は、当然またタイムスリップしたと思っている。

「お前の実家だよ。」

「実家? ってことは、令和2年の日本か?」

「今日は5月3日、憲法記念日だよ。」

エレベーターは約55年分上昇し、ついに元の場所に戻ってきたらしい。

「で、その目出度い憲法記念日に、俺は何してんだっけ?」

「お前、さっき弟さんに乱暴しようとしてさ、お母さんに一喝された後、しばらく眠ってたんだぞ。」

「えっ、眠ってた? 随分と長い旅をしてきたような気がするんだけどな。」

まだ倒れている健人の目の前に、母景美子の笑顔があった。

「母さん、ボケてたんじゃあ??」

母は、優しく健人に向って言った。

「実はな、圭司たちと話し合いをしてな、お前の性根を叩き直さんといかんと考えて、ボケた芝居をしていたんだよ。」

圭司も笑いながら言う。

「兄さんがあんまり変になってしまったから、元気だった頃の父さんも含めて、みんなで計画したんだ。」

「じゃ、どうして俺はタイムスリップを?」

「催眠術と経絡(けいらく)だよ。」

「??」

「母さんが“タワケ”というキーワードを言ったら催眠状態になって、その時に右肩にある“導夢”というツボを強く刺激しながら、俺が兄さんの寝ている横で話を読み上げたら、その通りの夢を見るって術さ。」

「それで蒙古軍の矢が右肩に刺さっていたのか!!」

「脚本は親田愛子先生に書いてもらい、演出では蒲池さんにも協力して貰ったよ。」

「それで法男がいつの時代にでも存在してたのか!!」

そこで母の景美子が言う。

「健人、お前に優しくしてやれなかった私と、亡くなったお父さんも悪かったと思う。許してくれ。」

健人も、今はすっかり素直になっている。

「いやいや、俺が悪かったと思うよ。夢なんだろうけれど、いろんな経験をしてきて、家族にとって、いや大袈裟だけど日本人にとって本当に大切なものが何かってことが分かったような気がする。」

「そうかい、それならお父さんの財産については、皆でじっくり話し合いをして決めようじゃないか。」

「いや、会社も継いでくれて、両親の世話もしてくれている圭司が会社の株や不動産を引き継ぐのは当たり前のことだから、父さんが作った遺言書通りでいいよ。俺は自分で稼ぐから、もう遺産は要らない。」

圭司は言う。

「いや、そうもいかないと思ったのか、父さんは兄さんのために生命保険に入ってくれていたんだよ。この保険金で家でも建てたらどうかな。」

景美子も言う。

「そうしてくれると嬉しいよ。それから、私もいずれは本当にボケるかも知れないので、遺言で私が受け取る財産については、親田愛子先生にお願いして“親愛信託”という手続きをしようと思っているんだよ。」

圭司が言う。

「親愛信託で大切なのは“愛と誠実”なんだって。」

健人は驚く。

「親愛信託! 愛と誠実! それって四宮先生やデイシーさんがおっしゃってた話じゃないか。本当にそんな世界が来ているんだ。」

「それから、兄さんには早く結婚して欲しい。母さんに孫の顔が見せてあげたいんだ。」

「そうか、でも俺は何故かいつもフラれてばっかりだから、なぁ法男、お前と同じで。」

そこに、水越春奈がやってきた。

「法男、ここに居たの。今日は結婚式場の下見の日でしょ?」

「え、えっ、ここだけは事実なの??」

驚く健人の顔を見て、春奈はさらに驚く。

「あっ、あの時の変な客!!」

物語は大団円で終結となった。

しかし、残念なことに今でも遺留分制度は無くなってはおらず、その解決はこれからの未来の話となるであろう・・・。

(おわり)

 

※この物語は全てフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません。

再度申し上げますが、本稿の中の歴史的事実の記載については、全くの間違いではないらしいとは言え、かなり適当に盛っておりますので、その点は悪しからずご了承願います。

ついでに申し上げますが、本稿のタイトル「田和家の一族」は、「犬神家の一族」と「ポーの一族」へのオマージュであります。

今の時代に両方知っている人は少ないと思いましたので、念のため。

それでは、à la prochaine!!

 

※予定通り憲法記念日である5月3日に最終回を迎えることができました。

これまで20回以上もお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

次回の企画にもご期待ください。