~歴史体験ファンタジー~ 田和家の一族

第10回から第12回の総括

さて、田和家の一族は遂に海外進出でしたね。

実際にあのような決まり方をしたかどうかは分かりませんが、ナポレオン1世が民法典を作り、それが現在もヨーロッパ大陸の大半と我が日本において常識とされている民法典となっていることは事実で、これらの国を「大陸法諸国」と言います。

要は「法律は国家が決める」「国民は黙ってそれに従え」「従っている限り国家が保護してやる」という、まさにナポレオン帝国的な発想であり、またそれが「お上」「お代官様」が大好きな日本人の感性とも合致しているのか、明治時代に大陸法が入ってきて以来、何の疑いもなく長年にわたって受入られてきました。

ところが、それに対して、ナポレオン法典とは全く異なる法体系を持っている国々があります。

それは、ナポレオンと敵対した大英帝国、そして自由の国アメリカを中心とする「英米法諸国」です。

英米法諸国では、多少の差異はあるとしても、少なくとも民事法に関しては「コモン・ロー(common law)」と呼ばれる自然発生的に作り出されたルールで運営されており、「慣習重視」「国民自身がルールを決める」、そして「自己責任」が大原則となります。

非常に乱暴な言い方かも知れませんが、大陸法国家の国民は何でも素直に国家の言う事を聞いていれば守ってもらえる、すなわち国民に多くの知識は不要なのに対し、英米法国家では国民自身が多くの知識を持っていなければ誰も守ってはくれないということでもあります。

その意味では、まさに昔の日本人は大陸法にベストマッチだったのかも知れません。

しかし、第二次世界大戦を経て平成の時代になって、日本人は知識、感性共に大きく成長し、また情報も行き渡る社会となり、必ずしも国家に何もかも決めて貰わなくても、自分の頭で物事を考えて決めることができる人が増えてきたのです。

そして、我が国にも英米法が導入される時が訪れました。

それが小泉純一郎内閣(2001~2006年)が掲げた「聖域なき構造改革(小泉構造改革)」です。

当時は国際情勢や経済事情など、いろいろな理由があったのでしょうが、我が国の法律を英米法的なものにしようとして、様々な法改正が矢継ぎ早に行われました。

一般的には郵政の民営化が有名ですが、法律業界にとって最も大きなトピックは「会社法」の制定(2006年)で、1円会社や1人会社が認められるなど、従来の常識を完全に覆すような、いわゆる「規制緩和」が実際に行われ、頭の固い専門家たちは大いに悩んだものでした。

また、司法制度改革では、アメリカのように法曹人口を大幅に増やす必要があるとして、司法試験制度が抜本的に改められ、現在の弁護士過剰供給の原因となりました。

幸か不幸か、小泉政権の終焉によって改革は中途半端な形で終わりを迎えてしまい、その功罪は不明のままの部分が多くありますが、少なくとも会社法、保険法、一般法人法の制定、そして実に80年ぶりの信託法大改正は、我が国の将来にとって有益なものであったと考えられます。

しかし、とても残念なことに、この時代にも民法自体は改正されず、相変わらず国家主導の大陸法のまま残ってしまいました。

そうなると、英米法的に作られたり改正されたりした法律と、大陸法そのままの旧態依然とした民法とのバッティングが生じてきます。

今まさに、財産承継に関して信託法と民法が本格的に戦いを交える日が目前に迫っていますが、まだ世間一般はもちろん、法律家や裁判官でさえも、その本質が見えている段階ではないと思います。

とにかく日本人は保守的であり、かつ誤解を恐れずに申し上げると大変「鈍感」な民族なので、どんなに画期的な法改正があっても、それが専門家に理解されるまでに10年、さらに広く国民に周知されて本来の活用がなされるまでには20年以上かかるというのが普通ですから、小泉構造改革の成果が本当に顕れるにはまだ何年かはかかるのでしょう。

さらに時代と場所を変えながら、この連載小説を続けることで、我が国の現行民法の問題点、さらには信託についても、ご一緒に考えてみたいと思っています。

物語はまだ中盤ですが、最後までお付き合いの程、よろしくお願い申し上げます。