~歴史体験ファンタジー~ 田和家の一族

第9回

エピソード3 ~南北朝時代:建武の新政編~その2

他の公家たちが帰ってしまった後、法男は定房に事情を聞いてみることにした。

「内大臣、どうしてこのような事態になったのですか?」

「実は、これは陛下のご計画なのじゃ。」

「ご計画??」

「鎌倉幕府が作った御成敗式目は素晴らしいものなのじゃが、ただ一つ、相続の部分だけは失敗した。」

「私もその通りだと思います。」

「じゃが、一度与えた所有権は簡単には取り上げることができん。ただ、お国が覆ったなら話は別なのじゃ。」

「なるほど、では陛下は鎌倉武士の所領を全部いったん取り上げて国有化されるというご計画なのですね。」

健人が口を挟む。

「全部チャラにしちゃうんだ! そんなことができるんですね。」

定房が答える。

「これを我々は“田寄り計画”と呼んでおる。」

「後醍醐天皇様は頼りになるということですね。」

「ただな、一緒に計画を進めようとしている足利尊氏とは微妙に意見が違っておってのぅ、これから先の事は心配なんじゃが・・・。」

実際この後、後醍醐天皇と足利尊氏は袂を分かち、長きにわたる南北朝の戦いが始まることになるのであるが、田寄り計画は室町幕府に受け継がれ、「田分け」の問題は一旦は解決したと言われている。

 

健人が法男に言う。

「この後、俺の家に一緒に来てくれるよな。」

「悪い、最近付き合い出した女が居て、ちょっと逢いに行かないといけないので。」

「こいつ、まさか水越家の・・・。」

「知ってるのか??春奈姫だよ。」

健人の心の声「こいつ、いつの間に。」

法男は健人が不機嫌そうになったので、仕方なく言う。

「まぁ、ちょっとだけだったら付き合ってやるよ。」

健人が法男を伴って自分の屋敷に帰宅してみると、何故か両親も弟の圭司も普通に公家として暮らしている。

やはり帰宅すると性格が元に戻ってしまうのか、健人は圭司に向って毒づく。

「後醍醐天皇様が朝敵所領没収令を出されて、土地の権利は朝廷が決めることになるらしいが、俺はこの家の長男なんだから、田和家が貰う領地は全部俺がいただくからな。お前は普請のバイトもしないで、屋敷で家族とノンビリ暮らしていて、もし権利が俺と同じだったら、こんな不公平はないぞ!」

どのような制度に変わろうと、やはり健人は文句を言うことになるらしい。

しかし圭司も言い返す。

「そりゃ、兄さんも頑張ってるのかも知れないけど、俺も両親の世話をしてるし、それに天皇様がお決めになることなんだから、俺に言われても困るよ。」

「では、領地は仕方ないとして、不公平になる分だけのカネを寄越せ。」

健人が圭司の胸倉に掴みかかろうとするところを、心優しい法男が止めに入ったその時、反対方向を向いていた母の景美子が振り返りざま、健人に向けて大声で怒鳴った。

「このタワケが!!」

その瞬間、真っ赤な閃光があたりを包み込み、世界の全てがストップしたかのように見えた。

次は何処に行くのだろう・・・。

(つづく)

 

用語の解説(詳しくは日本史の教科書やWikipedia等で!)

・建武の新政(1333~1336)

元弘3年(1333年)、鎌倉幕府を打倒した後醍醐天皇が、天皇自らが政治を行う「親政」を開始し、建武3年(1336年)に足利尊氏に敗れて政権が崩壊するまでの間の時代を言う。

この後は明治に至るまで、天皇が政治の表舞台に出ることはなくなった。

 

※本稿の中の歴史的事実の記載については、全くの間違いではないらしいとは言え、かなり適当に盛っておりますので、その点は悪しからずご了承願います。

※この肖像画は足利尊氏だと誰もが長年信じていましたが、最近の研究で、どうやら別人らしいということになりました。歴史とはそんなものですから・・・。

https://colorfl.net/ashikagatakaujishozoga/

この件に関して書かれているブログです。