リネージュ(Lineage)

~二つの会社と三つの家族の愛情物語~

番外編その1:企業再編の方法

ドラマの中でS社とN社が行った企業再編の方法について、少し振り返ってみましょう。

これが最初のS社とN社の状況です。

★N社の問題点

・前オーナー上川道春の死亡後、慶次への対応を誤ったために、遺産分割協議ができていないので、株式が三者の潜在共有になっている。

・代表取締役である上川安子に実質的な経営権がなく、実際には“社長代行”を名乗る専務と常務が経営を取り仕切っている。

・後継者であるべき上川雅樹は未熟であり、かつ銀行融資に対する連帯保証を避けるため、平社員のままである。

・不動産業はバブル崩壊以来ずっと赤字であり、建設業も最近では収支が悪化して、N社全体が赤字会社となっている。

★S社の問題点

・創業当時の経緯から、株主3名が各3分の1の割合で株式を保有しており、代表取締役である中村元彦に完全な決定権がない。

・後継者である中村綾香が宅建士試験に合格し、不動産業進出を希望しているが、新規に許可を取って事業を立ち上げるには、時間と費用がかかりそうである。

 

そこで、後継者である綾香と雅樹との交際を機に、両社のメインバンクである越後第一銀行主導で再編統合に向かうということになるのですが、N社の専務取締役で自称“社長代行”である窪塚健一に忖度したのか、最初に銀行が提案してきたスキームは、かなり無理のあるものでした。

要するにN社もS社も現状はそのままに、形だけのホールディングス会社(H社)を作って中村家と上川家というオーナー一族を棚上げにし、窪塚と松本が事業会社の社長となり、しかもH社が多額の融資を受けて、S社とN社の全株式も、銀行が融資の担保にしている不動産も全てH社に移転するというスキームで、これではオーナー家は経営には手を出せず、連帯保証人としての責任だけを負わさせるということで、特に優良企業であるS社側の中村家にとっては、赤字会社であるN社の債務を全部背負うことになり、ある意味とんでもない状態になってしまいます。

その後、たまたま“鳥さん事件”が勃発し、また窪塚健一が過去の悪事を隠蔽するために辞任することになり、銀行主導のスキームは少しだけ進歩します。

これにより、事件を起こした中村元彦の去就はともかくとして、オーナー家の経営権は確保されますが、やはりH社が多額の融資を受け、S社側がN社の負債を引き受けることには変わりなく、いろいろな税金が課せられることにもなります。

作中にありましたが、銀行はN社とS社所有の不動産をH社に所有権移転するために仲介手数料を請求してきて、それにはさすがに誰も納得できず、頭の良い松本専務が疑問を持ち始めるということになるのです。

仮に数字を入れて計算してみましょう。

・N社所有不動産3億円(取得原価2億円)

→売却で利益1億円に法人税課税(2~4千万円?)

・S社所有不動産1億円(取得原価5千万円)

→売却で利益5千万円に法人税課税(1~2千万円?)

・H社の購入不動産総額4億円

→不動産取得税1600万円、登録免許税800万円課税

・S社株式の課税標準額1億円(取得原価1000万円)

→株主3名に譲渡所得税課税(約2000万円?)

そうなりますと、課税総額は1億円近くに上ります。

その上に仲介手数料を両社に各3%課されれば、さらに2400万円アップしますし、おそらく銀行お抱えのコンサルタント会社は数千万円単位の報酬を請求してくるでしょう。

要するに、銀行は1億円以上の融資をH社にして、かつお抱えのコンサルタント会社や不動産会社に利益を回したかったというだけなのです。

ここまで聞かれて、相当に酷い話だと思われる方が大多数かと思いますが、実はこれ、仲介手数料やコンサルタント報酬の話も含めて、全て実際にあった話なのです。

しかも、現在でもこれと似たようなスキームが銀行や大手会計事務所、経営コンサルタントなどから平気で提案されており、これは相当に由々しき問題だと思います。

(つづく)