リネージュ(Lineage)

~二つの会社と三つの家族の愛情物語~

番外編その2:親愛信託&一般社団法人の活用法

そこで双葉梓と親愛信託&一般社団法人の登場となります。

しかし、前回お話しした“とんでもないスキーム”ですが、必ずしも悪意で提案されているのではない場合が多いというのが、かえって厄介なことなのです。

つまり、銀行も大手会計事務所も経営コンサルタントも、これからご紹介する親愛信託&一般社団法人というものの存在自体を知らないというケースが大多数なので、あの“とんでもないスキーム”がベストであると心から信じて提案してきているのです。

それだけに、おそらく全国で多くの会社が、必要もない融資を受け、払わなくてもいい税金を払わされているのではないかと思います。

読者の皆様は、これを機に、いかに信用のある銀行や、いかに有名な会計事務所やコンサルタントなどが提案してきたことであっても、もう一度冷静に見直してみられて、必要であれば双葉梓のような専門家に“セカンド・オピニオン”を依頼されるとよいのではないかと、ここでご提案させていただきます。

もちろん、私が所属する「よ・つ・ばグループ」をご活用いただくのがベストだと思いますが。

さて、双葉梓の提案です。

この提案では、各社の株式の“名義のみ”が、新たに設立された一般社団法人Hに書き換えられるだけで、各社所有の不動産と債務も現況のままであり、会社所有の不動産も個人所有の株式も含めて、財産権に関する所有権移転が一切ありません。

すなわち、新たな課税はゼロで、当然に新規融資もゼロになります。

税金がゼロになると言うと、何となく後ろ暗い気持ちになられる方もあるかも知れませんが、このケースでは税金を払う必要がないのに、銀行が融資をしたいがために、わざわざ税金が課せられる仕組みを提案していたのですから、こちらの方が本来あるべき姿なのです。

また、不起訴となって役員に残っても問題ないとされた中村元彦が一般社団法人の平理事に、有力者である阪本武史が監事に就任することで、人事的なバランスも取れました。

このスキームがスタートした後は、N社とS社の株式の議決権のみがH法人に移りますので、H法人が中村家と上川家の合意のもとに、両社の役員人事などについて適切な判断を行うということになり、両社はそれぞれの役員のもとに個別に経営判断を行いながらも連携を進めて行くということになります。

また、このスキームのメリットとして、将来に状況が変わった際、例えば後継候補者が変更になったりしたときには、単に信託契約の内容を変更するだけで対応可能となり、その都度の所有権移転や課税が不要ということもありますし、また旧株主が持つ“信託受益権”は相続とは関係なく信託契約で自由に次世代に承継させることができますので、いわゆる“株式の分散”は未来永劫に発生しないということになるのです。

そして将来、いろいろな状況が固まり、債務の問題も解消し、全ての環境も整った段階で、今度は双葉梓が言う「一般社団法人経営」の時代に入るということになるでしょう。

一般社団法人経営とは、このケースで言えばS社とN社の全株式を一般社団法人である

H法人が取得(実際には旧株主からの信託受益権の買い取り)して、両社の関係者は全員がH法人を通じて意思決定をすることになります。

そうなれば、株式の相続という問題は一切なくなり、現在の事業承継の大きなネックとなっている相続税問題を回避できることになります。

もちろん、一般社団法人は“誰のものでもない(Nobody’s property)”法人ですから、もう“オーナー”という存在もなくなります。

そうなると、“俺の会社”と言いたい人は困るのかも知れませんが、逆に誰のものでもない“みんなの会社”なので、公益法人と同じように永続的かつ民主的な意思決定が可能となるでしょう。

ドラマ最終回から5年後10年後、綾香と雅樹の個人的関係がどうなっているかは想像にお任せするとして、S社とN社との連携がさらに進んでいることは間違いないでしょう。

そして、おそらく元彦と安子は経営の第一線から引退して、鳥さんたちと共に悠々自適の暮らしに入っていることだと思われます。

もし綾香と雅樹が結婚していれば彼らの子どもたちが、そうでなければ上川家には慶次の子の翔大が、中村家には外戚とは言え静香の子の一郎が居ますから、彼らがH法人の未来を担っているのかも知れません。

そもそも一般社団法人には株式という名の財産権がないのですから、結局のところ親族でなくても、松本・山田の両専務や超有能な大宮侑璃など、誰が経営を引き継ぐことになったとしても何の問題もないのです。

そのことから、H法人の経営判断に際して最も重要な要素となるのは、中村家や上川家というオーナー一族の都合などではなく、S社とN社が行っている事業を支持してくれる顧客であり地域社会であり、各社の役員や従業員たちということになります。

まさに“王国経営”ではない“共和国経営”ですね。

この一般社団法人経営については、次回作でも最後の方で登場しますので、ご期待ください。

リネージュ番外編が終わりまして、これで連載は完全に終了です。

では、改めまして、長い間お付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。

また電子書籍でお会いしましょう。

最後に一つだけ、決してメジロを飼おうとは思わないでくださいね。

(おわり)

※またお会いしましょうね。