リネージュ(Lineage)

~二つの会社と三つの家族の愛情物語~

第13回:唖然

その夜、中村綾香は父の中村元彦から、折り入って話があるから実家に来てくれとの連絡を受けた。

同じ頃、上川雅樹も、母の上川安子から、同じような連絡を受けている。

父と母の使う通信手段はLINEやメールなどではなく、今でも普通の電話なので、綾香も雅樹も移動中とかで電話に出られない時も多いが、親世代はお構いなしのようで何度もしつこく電話をしてきて、ようやく連絡が取れたのだ。

しつこい電話への不満はともかくとして、綾香も雅樹も、いよいよS社とN社との提携が決まったとの報告があると思い、気を引き締めていた。

特に綾香は、つい先ほど雅樹に絶縁とも言える言葉を投げたばかりであったので、自分が言い出して父が動いてくれた会社の提携が実現してしまった後の自分の立ち位置や、父に対する後ろめたさを考えると、気が重くなっている。

ところが、綾香と雅樹が、それぞれの父と母から聞いた言葉は、まさに彼らが耳を疑い、唖然とするような内容であった。

「大変恥ずかしい話なのだが、私は上川安子社長と付き合っていて、再婚したいと考えるようになったんだ。」

「大変恥ずかしい話なんだけど、ママは中村元彦社長と付き合っていて、再婚したいと考えるようになったの。」

会社間の提携のことで何度も個人的に会っているうちに、どうやらそういう関係になってしまったらしい。

綾香も雅樹も、全く同じく、想定外の話に暫くは開いた口が塞がらないという状態になり、それぞれ何も言えなくなってしまった。

「お前たちより先に進んでしまって申し訳ないが、私たちの再婚を機に会社を一つにしたいと思っているので、綾香も早く雅樹さんとの結婚を決めてくれ。」

「あなたたちより先に進んでしまって申し訳ないんだけど、私たちの再婚を機に会社を一つにしたいと思っているので、マー君も早く綾香さんとの結婚を決めて欲しいの。」

綾香も雅樹も、まだ何も言葉が出ない。

「どうだろう、親子で合同結婚式というのは。会社も含めて3組のカップルが一度にできるなんて、凄く目出度いし、世間の話題になるだろうな。素敵じゃないか。」

「どうでしょう、親子で合同結婚式というのは。会社も含めて3組のカップルが一度にできるなんて、凄く目出度いし、世間の話題になるでしょうしね。素敵じゃないの。」

すっかりその気になっている父と母の気持ちを害するのも申し訳ないと思い、綾香も雅樹も、その日は自分たちの関係が以前とは変わっているという事実を告げることは避けたが、合同結婚式の会場を予約すると言い出した父と母の言葉だけは、辛うじて思い止まらせたのであった。

翌日、さすがにこのままではマズいと思い、綾香は雅樹と会うことにした。

もちろん、会う前のLINEで“あくまでも父と母が再婚すると言い出して困っている娘と息子という立場で会うのよ”と綾香は釘を指しているが、雅樹は自分たちの復縁に一縷の希望を持っていた。

「さすがにマズいよね。」

この綾香の言葉には、いろいろな意味が入り混じっている。

「確かに。でも本人たちは幸せなんだし、両方の会社にとってもプラスなんだから、それはそれでいいんじゃないのかな。」

綾香とは違い、雅樹の言葉は素直な気持ちから出たものだった。

「それはそうかも知れないけど、私たちはどうなるのよ。」

「綾香さん、昨日言ってたじゃない、会社と個人とは別なんだからって。」

綾香は、珍しく雅樹に痛いところを突かれてしまったなと思った。

確かに、会社と個人とは別である。

だけど、綾香は雅樹との結婚を意識していた時に、そのあたりを一緒にして考えてしまっていたのだ。

そして、自分が動かし始めたことが、自分の想像以上の展開になってしまい、もう自分では止められない状態になりつつある。

綾香は冷静になって言った。

「確かに、雅樹さんの言う通りだわ。父と母のことは父と母のこと、会社のことは会社のことだから、私たちのことも私たちのこととして、もう一度ゆっくり考えましょう。」

綾香の言葉に、雅樹はまだ完全に綾香に嫌われたのではないと思い、少しだけ安心したが、それと同時に、自分がもっとしっかりしなければ母も会社も、もちろん綾香も守れないのだとの前向きな気持ちが芽生えるようになってきていたのだ。

(つづく)