震災復興&歴史発掘ファンタジー

「ストロベリーランナー ~亘理伊達開拓団からのメッセージ~」

第14回:一縷の希望

買ったばかりの“俺の船”を失い、住まいも仕事も失った坂口雄太は、両親と共に避難所で日々の暮らしを繋ぎながら、復興のための土木作業員の募集に応募することにした。

雄太の自宅があった荒浜地区は、今なお立入禁止区域に指定されており、何が起こっているのかさえ分からないのであるが、役場の担当職員から聞いた話では、とてもこの世のものとは思えない状況になっているとのことである。

荒浜地区は、太平洋から来る津波と阿武隈川の河口の水とが激突した場所であるから、それも無理のないことであろうと、雄太は諦めの気持ちになるしかなかった。

雄太をはじめ、荒浜の元漁師の多くは、その後に亘理町の沿岸部全体を埋め尽くしている瓦礫の山に挑む復興作業員となっている。

彼らは絶望感にさいなまれながらも、大切な故郷を美しかった昔の姿に戻すという共通の目的だけを唯一の心の拠り所として、モチベーションを保っていたのであろう。

雄太も、今は出口が見えないにせよ、やがて必ず復活の時は来る、“俺の船”はなくなってしまったが、きっと海はずっと自分を待っていてくれると信じることにした。

「俺の船、何処へ行っちまったのかと思ってたら、鳥の海の橋の上に上がって、親父の車と仲良く並んでるらしいよ。まさに奇跡のツーショットだな。」

避難所で信幸と出会った雄太は、努めて明るく話した。

幼少時以来いろいろな面でライバルであり、実は最近では里美を巡っての恋敵でもあったらしい信幸の変わり果てた姿を見た雄太にとって、明るく振る舞うことが、彼なりの友情の表現であったのだろう。

しかし、雄太の心の中の悲しみも十分に理解している信幸にとっては、それを聴くことすら辛い気持ちである。

せっかくの雄太の友情に対しても、何一つ言葉を発することすらできない自分を、信幸はまた責め立てるのであった。

そんな時、避難所で暮らす柴田里美に、桜木司織がある情報を持ってきた。

この度、亘理町役場の仮設庁舎の中で開局した臨時災害FM放送局の“FMおおぞら”から、司織に協力者を探して欲しいとの依頼があったので、テレビ局でのレポーターとしての経験がある支倉智美を推薦したいとの話である。

「智美さんは最適任者だと思うの。私は智美さんのことをあまり知らないから、里美さんから話して欲しいんだけど。」

姉と向き合って話をする機会を見付けることができずにいた里美にとって、絶好の機会であり、これこそが司織が編み出してくれた姉妹和解の手段であろうということも、里美には十分に分かっていたのだが、智美とのこれまでの長い間の軋轢を思うと、なかなか判断がつかない。

いつもは快活なのに、珍しく迷っている里美に、司織は一つの提案をする。

「じゃあ、里美さんも一緒にやればいいじゃない。」

司織の意外な言葉に、里美は姉との和解を決意する。

そして、里美は司織の事務所で智美と三人で話していた。

司織は、最初にFMおおぞら開局の趣旨を説明した後、こう付け加えた。

「もちろん、災害臨時放送局の使命は、被災状況や放射線量などの情報を伝えることですが、私はそればかりではないと思うのです。」

阪神大震災での経験を踏まえて、司織は言葉を続ける。

「どのような悲惨な状況の中でも、必要なのは一縷の希望なのです。お二人には亘理の希望の象徴になって欲しいと思っています。」

こうして、支倉智美と柴田里美の姉妹は、FMあおぞらに協力することになった。

FMおおぞらのスタッフも、レポーター経験のある智美と避難所で大活躍している里美という、外見も魅力的な姉妹を、心から大歓迎してくれた。

もちろん司織も、時には放送の中で法律相談や悩みの相談のコーナーを担当して、姉妹に協力するのであった。

このように、若者たちはそれぞれに一縷の希望を見出して、新たに歩み始めている。

ただ一人、斎藤信幸だけを除いて。

(つづく)

※仮設庁舎から悠里館に移転した後のFMあおぞらスタジオです。