Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第33回

第3章:トラスト 第9話

遂に台湾から潘美麗が来る日となった。

今は建て替えられて新しい家になっているとは言え、美麗の母である桜子が長年暮らした恵庭家の自宅に、司郎、駒子、天馬、駿馬、奈々子、優駿の5人が揃っていた。

美麗を待つ間、駿馬一家と天馬は打ち解け、ずっと一緒にいる家族のようになっている。

約束の時間、美麗は同年齢くらいの女性と二人でやってきた。

桜子のクリスチャン墓地には先に参拝してきたとのことだ。

美麗と一緒に来たのは、どうやら同性パートナーのようで、美麗はその彼女と一緒に暮らしており、子どもは居ないようである。

美麗にとっては40数年ぶりの日本であるが、パートナーの女性は日本への留学経験があるとかで、一応の日本語を解するので、彼女を通じて恵庭家の人たちと美麗とは会話をしているが、最初は差し障りのない話ばかりで、なかなか相続の話には進まない。

2時間くらい経った頃だろうか、美麗はゆっくりと話し始めた。

「私は物心ついてから初めて母の国に来ましたが、ここに来てお話してみるまで、皆さんがどんな方々なのかも分かりませんでしたから、込み入った話は敢えてしないようにしていました。でもよく分かりました。皆さんもきっと、それぞれに大変なご事情があったこととお察しします。しかし私の母は、みなさん全員に等しい愛を与え続けていたものと確信しました。ですから私は母の相続の手続きに協力しますが、お金は要りません。」

司郎をはじめ、全員が美麗に深々と頭を下げる。

「その代わり、今日から皆さんとは親戚としてお付き合いいただきたいと思います。」

その後1週間ばかり、美麗とパートナーは、小樽や札幌の観光を楽しんで帰国したが、帰国前に新千歳空港まで見送りに行った恵庭家の人たちとは、ずっと昔からの親戚のようであった。

結局、桜子の相続手続きは、司郎と駒子が現金を、駿馬が不動産を取得するという内容でまとまり、美麗には「お礼」としてそれなりの金額を送金するということになった。

その数日後、蒲池肇が司郎の自宅を訪れる。

司郎は、偽の遺言書のことをすっかり忘れていたのである。

「すんまへん、あれから連絡がおまへんので、尋ねに来ましたんや。」

司郎は美麗と連絡が取れて相続手続きが完了していることを正直に告げた。

「でも、先生が作っていただいたあの書類があったおかげで、どれだけ心強く居られたかと思えば、本当に感謝にたえません。」

これも司郎の正直な本音であった。

「そうどしたか。そりゃよろしおましたがな。でもあれは奥さんが書きはったもんでっせ。」

蒲池は淡々としている。

司郎は意を決して言う。

「で、お手数料はお幾らに?」

(つづく)