Beautiful Dreamers
~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第31回
第3章:トラスト 第7話
2016年9月になった。
神田美鈴はロンドンに帰り、司郎の周囲が元の生活に戻ろうとしていた頃、台湾から潘美麗がパートナーと一緒に来日するとの報せが入った。
美麗からの要望は、司郎を含めて桜子の親族全員と会いたいとのことである。
司郎は、いよいよ長男の駿馬と、そして駒子の元の夫である邦彦と和解する時が来たと思った。
このことでは、神田美鈴牧師が日本を離れる前に、指導を十分に受けておいたのである。
司郎はまず、苫小牧に住む駿馬一家を訪ねた。
もう10年以上前の話になる。
日本中央競馬会騎手学校を中退して小樽に帰ってきた駿馬に、司郎はことさら冷たく当たった。
騎手になるのは司郎の夢であって、決して駿馬の夢ではなかったのに。
毎日のように親子は言い争い、遂に駿馬は小樽を立ち去った。
最後まで駿馬をかばった桜子と司郎との関係が決定的に疎遠になったのも、それからであった。
司郎は駿馬が去った翌年、雪の降り積もる苫小牧に駿馬を訪ねたことがあったが、やはり言い争いになって、かえって溝は深まってしまった。
何も持たずに両親のもとを去った駿馬が住んでいた、見るからに寒そうな安アパート、その侘しい光景を司郎は今でも鮮明に覚えている。
ところが昨年、駿馬が門別競馬場の人気騎手だった八千草奈々子と結婚し、優駿という名の長男ができているということを、駒子の口から聞いた時、司郎は本当に心から驚いたのだった。
桜子の葬儀の日、駿馬は奈々子と優駿を伴って小樽にやってきた。
その時、司郎はどんなに頭を下げて駿馬に謝りたかったか、今から思えばほんの僅かな意地とプライドとが邪魔して、亡き桜子がせっかく最後に用意してくれたのであろう絶好の機会を、終始無言のままで逃してしまったのだ。
今の駿馬は、以前とは違って、それなりのマンションで暮らしていた。
真面目な性格なので、サラリーマンとしても無事に勤めているのであろう。
予告なく訪れた司郎を、奈々子と優駿が出迎えた。
「お父様、どうなさったのですか?」
奈々子がそう言うのも無理はないだろう。
まさか恵庭司郎が自分から駿馬の所に来るとは、誰も思っていなかっただろうから。
暫くして駿馬が会社から帰ってきた。
駿馬の驚きは相当なものであった。
「お、おやじ・・・。」
(つづく)