Beautiful Dreamers
~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第29回
第3章:トラスト 第5話
ステイブル・チャーチでの日曜礼拝が続いている。
神田美鈴牧師の説教は、本場で学んできたというだけのことではなく、彼女の人柄がよく表れた、笑いあり涙あり、胸に刺さる逸話もあり、もちろんその中心には聖書の教えがあり、まさに完璧な作品だと司郎は思った。
美鈴は、まだ乳飲み子の頃に、この教会の前に捨てられていた子で、神田牧師が引き取って特別養子という法律的な手続きを使って本当の自分の子として、ここまで育て上げたのであるから、きっと親子共に苦労や悩みが沢山あったのであろう。
そして神田三郎牧師の説教も、普段とは大きく違う素晴らしい内容であった。
「こうして新旧の世代が切磋琢磨することで両方の良さが出てくるんだな。駒子にも会社のことを、もっといろいろとやらせてやらなくてはいけなかったんだ。それに邦彦君のことでも申し訳ないことをしてしまった・・・。」
そして司郎は、長男の駿馬のことに想いを馳せる。
「どうすれば、過去に袂を分かった人たちと和解できるのだろうか・・・。」
神田親子の渾身の説教を聴いて、司郎は自分が今まで強く拘り、これまで己の人生の中心に据えてきた無念や怒りといったマイナスの感情が、いかに無意味で無駄なものであったかという真実に気付き始めてきたのだ。
教会からの帰り道、後を追ってきた白石裕也が、話があるとのことで、司郎は自宅に裕也を迎えた。
「会長、陽花里から“シロちゃんの弟”の話を聞いたのですが、本当なのですか?」
「うん、駒子や大川には内緒にしているのだが、実はもう手に入る寸前なんだ。」
「もちろん、社長や経理部長には黙っておきますが、決して無理はなさらないでください。」
「いや、この話は、もちろん陽花里ちゃんが後押ししてくれたのは確かだが、私の意思だから気にしないでくれ。」
「実は、あれから陽花里がとても元気になってきまして、次のソフト、もしかしたらできるかも知れないんですよ。」
「そりゃ素晴らしい。ミラクル・スタリオンⅢか。」
「全力で頑張ります。僕も腎臓が一つになっちゃってから何だか弱気になっていましたが、今日の美鈴牧師の説教で目から鱗が落ちたような気がするんです。もちろん神田牧師の話もいつもになく素晴らしかったですが。」
「そうだな、もう次の世代の君たちの時代なんだよ。」
「そこで会長、一つだけお願いをしてよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「池添課長をお赦しいただきたいのです。」
司郎は言葉に詰まった。
(つづく)