Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第10回

第1章:「スパイラル」第8話

恵庭夫妻と大川夫妻は、先代牧師の時代から神田の教会の信者仲間である。

神田の父であった先代牧師は、誰もが尊敬する高潔な人物であったが、神田は若い頃から放蕩三昧で父を困らせる悪い息子であり、同年代の司郎も昔からそれを知っていた。

案の定、神田が教会を継いでからは信者の数が激減し、教会の経営にも行き詰まるようになってきたが、神田は競馬をやめようとはしない。

一緒に競馬場に行く司郎は、最初は馬券代の寸借から始まり、やがて結構な金額を神田に貸し付けることになってしまう。

実は、ここにも司郎の希望があったのだ。

神田には美鈴という一人娘が居る。

正確に言うと本当の子ではなく、教会の前に捨てられていた子を特別養子(本当の親との法律的な関係を完全に切ってしまう制度)として神田が引き取って育てたのである。

そして美鈴は、恵庭駒子と幼稚園以来の同級生で親友なのだ。

美鈴は現在、牧師としての知識を高めるための修行でロンドンに留学していると、司郎は駒子から聞いている。

美鈴が戻ってくれば、きっと良い教会になるだろう、それも司郎の願いである。

しかし、駒子から聞いた情報では、美鈴が父に司郎からの多額の借金があることを知ってしまい、悩んでいるとのことであった。

W社の社長を務めている大川良一、敬虔過ぎるクリスチャンである彼のことを、司郎は信頼している。

だからW社の社長の座に就けているのだ。

しかし、どうやら良一の妻の茂子は、司郎の言いなりになっている夫に対して不満を持っているらしい。

噂ではあるが、茂子は良一の稼ぎを元手に株やFXで成功して、かなりの資産を貯め込んでおり、良一の退職後には熟年離婚を狙っているとのことである。

人のいい良一には考えも及ばないことであろうが、司郎は心配している。

大川夫妻には一人娘の宏美が居る。

もう30歳を過ぎている筈だが、未だにコスプレという趣味に嵌っており、アニメ制作者になることが夢とかで、定職にも就かずにいるらしい。

宏美は結婚していて、夫の清秋はビジュアル系ミュージシャンという職業で、「白夢」というバンドを組んでいるのだが、音楽性が極めて特殊のようで、ごく一部の熱狂的なファンは居るものの、実質的には無職の状態らしい。

しかし、清秋の両親は日高地区で大きな牧場を経営しているらしく、生活自体には困っていないということではある。

「みんな、大丈夫なんだろうか?」

司郎は心配するが、実際には司郎自身に原因の一端がある話も少なくはないのである。

「恵里佳・・・。」

司郎がある人物の名を思い出したところで、東京競馬場G1ファンファーレが突然鳴り響く。

(つづく)