Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第6回

第1章:「スパイラル」第4話

創業の時にゲームと競馬、そして北海道を念頭に置いて作った経営理念に拘る司郎に対し、現実派であり、かつ敬虔なるクリスチャンでもある大川は言う。

「いえ会長、それが神の大いなる思し召しなのであれば、有難く受け入れなければなりませんよ。」

「まぁ、渋井君にはボーナスを弾んでやってくれ。」

今度は大川が少し困り顔で言う。

「渋井君、生活再建は上手く進んでるんでしょうかねぇ。」

実は、渋井は3年前、大好きだったパチンコが原因でサラ金から借金を重ねて、結局は自己破産しており、そのことが理由でW社の取締役の地位を失っているのである。

「ギャンブル依存症は治り難いですから。」

大川の言葉に、司郎は少し嫌な顔をする。

大川は競馬にも全く興味がなく、ギャンブル自体を嫌っているが、競馬とパチンコと、その対象は違えども、司郎は同じギャンブラーとして、渋井には個人的な同情心があるのだ。

他にも幾つかの経営上の報告を聞いた後、司郎は白石の居る部屋に移動した。

「白石君、陽花里ちゃんの具合はどうだね?」

「ご心配いただき、ありがとうございます。相変わらずというところでしょうか。会長のおかげで医療費の心配がないので、本当に感謝しています。」

陽花里の難病には高額の医療費が必要なのだが、W社設立後の数年間は司郎が裕也に医療費相当分を貸し付けてやっており、6年前からは「オグリインパクト8冠記念基金」という公益財団法人から難病の子どもに対する支援金が出されるようになったとかで、陽花里の口座に毎月かなりの金額が送金されてくるのである。

「いや、私よりも、オグリインパクトのオーナーさんに礼を言いなさい。まぁ、オグリインパクトとのご縁も、ホワイティドリームのおかげではあるがね。」

「会長、昨夜はルミエールダンサーのレースを見てこられたんですね。」

「うん、第1レースでまたブービー。これで破竹の89連敗さ。あの有名な高知競馬のハルウララの100連敗を目指しているんだが、あいつ、もう少しのところで勝ってしまいやがる。」

「何だか会長の馬って感じで、いいですよね。」

「どういう意味だ。でも白石君が笑っていると、陽花里ちゃんにも良い影響を与えるように思えて嬉しいよ。」

「陽花里にも報告しておきますよ。」

「しかし、ダンサーちゃんも15歳だからなぁ、もうすっかり婆さんだよ。」

「ダンサーには、いつまでも元気で走っていて欲しいです。」

裕也は陽花里のことを思ったのか、少し寂しそうに言う。

そこに別室から渋井護が入ってきた。

「会長のお声が聞こえましたので。」

(つづく)