3分間動画シリーズ解説編第2回:親愛信託の登場人物

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第2回は「親愛信託の仕組みその2」として「親愛信託の登場人物~信託法の世界を動かす人たち~」を解説します。

まず「信託法の世界の中の登場人物は信託法の世界の中だけで活動する」という大前提を押さえてください。

ただ例外として、民法の世界から信託法の世界に財産を移すために存在する「委託者」と、信託が消滅した時に民法の世界に戻ってきた財産を受け取る「残余財産帰属権利者」が存在しますが、彼らも「委託者」「残余財産帰属権利者」と呼ばれるのは信託法の世界の中だけであり、いずれも民法の世界では「所有者」という名前になるのです。

あと、受託者は信託財産の名義人として、例えば不動産である信託財産を外部(民法の世界の人)に売却して金銭化する際などには、外部の世界の人と契約関係を結ぶことがありますが、それはあくまでも「信託法の世界と民法の世界の境界線を隔てての取引行為」というイメージになります。

まず「委託者」ですが、まさに「信託をスタートするため」に存在する人であり、当然ですが信託財産になるべき財産の「所有者」です。

つまり、信託の最初にだけ登場して、その後は「受益者」という名前になるのですから、「追加信託」という新たな信託行為が行われる時を除いて、信託継続中は登場することがないのですが、信託法の本質を分かっていない人たちは何となく「委託者」と「受益者」そして「所有者」との明確な区別が付いていないようで、信託がスタートしてからも委託者に何らかの権利や権限が存在すると思っている節があり、実は立法時にも立法担当者の理解が浅かったのか、条文上でも時々「委託者」が登場するなど、揺れが出ている部分があるのです。

しかし普通に考えても信託スタート後に委託者が登場してくることはありません。

ただ、間違ってはいけないのが、あくまでも信託行為は委託者と受託者が行うものなので、追加信託を行う権限があるのは委託者のみということです。

時々「受益者(または受益者代理人)や受託者が追加信託できる」と書いている信託契約書を見かけますが、それは信託法上では許されていない行為ですから、もし書いてあったとしても無効です。

つまり委託者が行為能力を喪失した後の追加信託行為は「遺言追加信託」を除いて不可能であるということになります。

次に「受託者」ですが、「名義」は持っているのに「権利」は一切持っていないという、法律的には非常に特異で面白い存在です。

やはりこのあたりの感覚が理解できない人が多いのか、未だに「受託者=信託財産の所有者」「受益者=受託者に対する債権者」であると誤解している人が存在していますが、民法の世界だけしか知らない人にとっては無理もないことなのかも知れません。

英米の信託法では、信託財産自体が「疑似法人格」を持っていると考えているようで、このあたりの理論が極めて明確に説明されています。

要するに信託は「株式会社」みたいなもので、「委託者=発起人」「受託者=役員」「受益者=株主」「信託財産=会社の財産=物的有限責任」というイメージですね。

ところが我が国ではそのような捉え方をしていないので、例えば信託法第21条の「信託財産責任負担債務」に対する誤った解釈がなされて、本来は何の権利も持っていない受託者が「無限責任の債務者」にされて、多大な義務だけを負わされてしまうなどの大きな間違いが起きていますが、それに関しては別の機会に解説します。

次に「受益者」ですが、「株式会社に例えれば株主」というのは正解であり不正解でもあります。

確かに信託財産に関して収益があれば分配を受ける権利がありますが、単なる民法上の財産でしかない「株式」と、信託法の世界の中での存在である「受益権」とは性質が異なります。

何故なら、株式は民法の規定に従って売買や相続などで権利が移動するのに対して、受益権は相続によってではなく、信託行為で定められた理由でもってしか権利が移動しないという特性があるからです。

だからこそ信託法第89条に基づく「受益者指定・変更権」や第91条に基づく「受益者連続」が認められるのですね。

このあたりについても誤解の多い部分ですから、機会を改めて詳細に解説します。

「委託者・受託者・受益者」の三者は、信託行為を実行するために欠かせない存在ですが、次に信託行為によって自由に設定できる地位となる登場人物を紹介します。

まず「受益者代理人」ですが、この「代理」という用語が誤って解釈されている感じがありますので、この言葉は民法の世界ではなく信託法の世界でのものであるということを前提に考えてください。

受益者代理人が存在する時は、基本的に受益者は全ての権限を受益者代理人に託したことになり、自ら意思決定することはできなくなります(信託の「代行機能」の一種です)。

そこが、「代理人」が居たとしても「本人」も意思決定ができるのが原則の民法の世界とは異なる部分です。

よく高齢者の方が受益者の場合に安易に受益者代理人を付けているケースが見受けられますが、このあたりを誤解していたり、説明していなかったりすると、受益者の方が「話が違う」と立腹される可能性もあるでしょう。

もちろん、ここも「別段の定め」を駆使すればクリアできるのですが。

次に「信託監督人」ですが、これも「監督」という言葉が独り歩きして、あたかも「受託者が悪い事をしないように監督する人」みたいなイメージが広がっているようですが、信託法の条文で定められている内容は全く異なっており、受益者代理人以上に信託行為でもって権限を自由に定めることができる立場で、敢えて言うなら信託全体をサポートするような立場と言えるのかも知れません。

「受益者指定権者」と「受益者変更権者」は、信託法第89条で定められている信託法独自の地位で、まさに「民法とは根本的に異なる法律である」ということを示す大きな証拠となる存在と言えます。

まず民法の世界では「所有権」に絶対的な力があり、また「相続」の制度は国家が勝手に所有者を決めてしまいますから、所有者という存在が空白になることは有り得ませんし、ましてや所有者から一方的に所有権を奪うことなど到底できません。

ところが、信託の世界では受益者が不在になることは当然のように想定されており、その空白になった受益者を決める権限を持つ「受益者指定権者」、既に存在している受益者から一方的に受益権を奪って他者に変更する権限を持つ「受益者変更権者」を置くことが認められています。

この二つの地位については、民法の世界しか分からない人たちには到底理解できないようで、実際にはあまり活用されていないのですが、これこそがまさに「信託の花形」なのです。

信託行為が終了事由によって終了した場合、株式会社が解散した時と同じように「清算期間」が始まります。

そして、まさに会社が解散したら取締役も監査役も存在しなくなって「清算人」が登場するのと同じく、信託が終了したら受託者も受益者も存在しなくなって「清算受託者」が登場するのです。

清算受託者には、既存の受託者が引き続き就任するケースが多いのですが、法的な地位は全く異なっており、清算事務のみを行う立場になります。

そして清算事務が結了したら、遂に信託の世界は消滅し、信託財産は民法上の所有権に戻ることになりますが、その所有権を得る者として信託行為で定められているのが「残余財産帰属権利者(残余財産受益者という呼び方もありますが、解釈的に大きな差異はありません)」です。

ここまでが信託法の条文の中で定められている登場人物ですが、信託法は「契約自由の原則」が最大限に生かされる法律ですから、条文の中で定められていない登場人物を任意に作り出すことも可能です。

その中でも「指図権者」と「同意権者」は時々使われますので、ご紹介しておきます。

これらは受託者が行う意思決定に対して「指図」や「同意」をする権限を持つ登場人物で、信託行為の中でその存在や権限の範囲を特定することで作り出すことができます。

例えば株式信託の場合に受託者の議決権行使に対して「指図」や「同意」を行うというのが典型的な活用方法ですが、他にもあらゆるパターンが考えられると思います。

このように、信託の世界は自由で素晴らしいものなのですが、一方で自由さをよく理解して信託行為を作らないと、かえってそれに縛られてしまう可能性もありますから、やはり信託行為を作られる際には経験豊富な専門家を活用されるべきと、改めて認識していただければ幸いです。

これ以上の内容を知りたい方、あるいはご質問、ご相談、さらに講演や原稿の依頼については、よ・つ・ば親愛信託総合事務所までお問合せください。

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