Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第35回

第4章:ビリーフ 第1話

司郎の症状は脳溢血であった。

たまたま医学的な知識が少しある鈴岡葉子が同乗していたため、高速道路上から直ちに救急車を呼び、一命を取り留めることができたが、おそらく司郎が一人で運転していたなら、高い確率でそのまま帰らぬ人となっていたであろう。

しかし、集中治療室に入った司郎の意識は戻らず、精密検査の結果、肝臓に癌細胞が見付かったとの報告を駒子は受ける。

医師の言葉から、まだ確定ではないにせよ、父の命がそう長くは続かないようであるということを、駒子は悟っていた。

数日後、鈴岡葉子が駒子に折り入って話があるとの連絡を入れてきた。

高速道路の路肩で救急車を待っていた僅かな時間、司郎は途切れ途切れの意識の中で、鈴岡に語った言葉があるのだという。

最初、鈴岡は、司郎の症状は一時的な脳溢血で、すぐに退院してくるだろうと考えていたが、今から思うと司郎は肝臓癌のことも分かった上で、鈴岡に語ったことを駒子に伝えておきたかったのではなかろうかと考えるようになったということである。

「会長は幾つか、とても重要なことを私に話してくださいました。メモをしてきましたので、順番にお話しします。」

「心して伺います。」

駒子も気持ちを固めた。

「まず、最も重要なことからお話いたします。白石陽花里ちゃんの父親は会長です。」

駒子は嘆息した。

司郎の陽花里に対する気持ちが尋常でないことに薄々気付いてはいても、敢えて詮索することを控えていたのではあるが、実際に事実を聞いてしまうと、咄嗟には言葉が出ない。

「そうですか・・・。」

「そして裕也さんですが、彼の父親は自分なのか白石光男さんなのか、本当のところは分からないと。でも裕也さんは光男さんを父であると信じ、優秀なコンピューター技術者であった光男さんを心から尊敬しておられるので、何も知らせないで欲しいと。」

鈴岡は、僅かな時間に司郎の口から聞いた、過去の白石家と司郎との関係について手短かに話した。

駒子にとって司郎は父であるから、父の過去の不倫の話は伏せておこうかと、鈴岡は一度は考えたが、全て話してくれと強く断言した司郎の意思を尊重することにした。

さすがに駒子にとってはショックな話であったのだろう。

「・・・。」

それでも、鈴岡は意を決して大切な話を続ける。

(つづく)