Beautiful Dreamers
~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第19回
第2章:ペディグリー 第7話
天使のような表情をして、再び眠りについてしまった陽花里を残して、司郎は清華苑を後にした。
「陽花里に約束してしまったな。何としてもシロちゃんの弟を手に入れないと・・・。」
しかし、サラブレッドを購入するためには、少なくも数千万円、いわゆる良血馬であれば1億円を超えることもザラなのである。
「ドリームメイカーの2015」は、母馬こそ特に良血でもなく、ホワイティドリーム以外に目立った産駒はないのだが、なにしろ父があのオグリインパクトなのだから、安値で売買される訳はない。
司郎は佐倉に相談することにした。
「やっぱり、買い行動に出ましたね。」
佐倉は、まさに自分の思惑通りに動く司郎の心が面白いのか、電話口の向こうで笑っているようだ。
「佐倉さん、茶化さないでくださいよ。真剣にあの馬が欲しい。でも問題は値段ですよね。」
「あの血統なら“一本”ってとこでしょうかね。」
「1億円・・・。」
その後、司郎は先ほどの陽花里とのやり取りを話した。
これまでは、あまりプライベートを見せない司郎だったので、佐倉は司郎の口から陽花里の話を初めて耳にして、司郎にそんなところがあったのかと驚きながら、少し考え込んでから言った。
「会長、よく分かりました。私が協力しますから、何としても“シロちゃんの弟”を手に入れましょう。」
司郎はW社に戻った。
「会長、何かお忘れ物ですか?」
駒子がまた少しよそよそしい口調で言う。
「駒子、会社の試算表を見せてくれ。」
「急に何なんですか。新しい馬を買うなんて、絶対に無理ですからね。」
駒子に先を読まれてしまったようなので、司郎はしばらく黙り込む。
少し間を置き、司郎は取り繕うように口を開いた。
「いや、実はそろそろ事業承継のことを考えようと思ってな、会社の現状を知っておくために数字を見せてもらおうと思ったんだ。」
「なんだ、それならいいですよ。」
駒子は、先月分までの試算表を出してきて、司郎に説明を始める。
今のW社に資金的な余裕がないことは、数字に疎い司郎にも一目瞭然であった。
(つづく)