Beautiful Dreamers
~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第18回
第2章:ペディグリー 第6話
司郎と恵里佳との繋がりが完全に消えてしまってから4年、その後の白石一家の消息を、何の法律的な関係もない司郎は戸籍を見ることもできず、調べる術を持っていなかった。
しかし、白石裕也は公の場に姿を現したのだ。
「白石裕也君が、ミラクル・スタリオンを世に出すために会社を作ろうとしており、スポンサーを募集しています。」
司郎が問い合わせをした大手ゲームソフト会社の関係者が漏らした情報に、司郎は飛び付くような想いであった。
そして裕也との面談。
幼少時から裕也の姿は何度か見ていたし、4年前にも牧場で少しだけ姿を見たが、対面して話をするのは初めてであった。
「はじめまして。恵庭司郎さんですね。私は白石裕也と申します。私の父はコンピューター技術者でしたが、私が生まれる前に事故で亡くなりまして、私は母に育てられました。」
白石光男の死因は事故であると裕也は信じているらしい。
そして次の言葉に司郎は動揺する。
「実は母も1年前に亡くなりまして、今は私と妹の二人で暮らしています。」
恵里佳は1年前、子宮癌が発見されたが、既に手遅れで、二人の子に想いを残しながら無念の死を遂げていたのだ。
さらに、裕也の次の言葉に司郎は、もっと動揺することになる。
「妹はアラジール症候群2型という難病に侵されていまして、4年前から入院したままなのです。」
司郎は4年前に牧場で見かけた陽花里を思い出すが、確かに6歳という年齢の割には小さく、儚いイメージの少女ではあったものの、まさか難病に侵されているとは夢にも思わなかった。
「妹が最後に外出できたのが日高にある牧場でして、そこで見た白い馬を気に入って、“シロちゃん”と名付けていつも話題にしていましたので、その馬が競走馬になってから後の名であるホワイティドリームをゲームに登場させたのです。」
こうして司郎と白石兄妹は正式な形で出会った。
裕也は、司郎がホワイティドリームのオーナーであったことをここで初めて知り、その運命の綾に感動するが、司郎と自分たちの母である恵里佳との関係については全く知らず、想像を巡らせることすらなかった。
そして、司郎は裕也と陽花里のために株式会社ホワイティドリームを設立し、ミラクル・スタリオンの製造販売をスタート、そしてミラクル・スタリオンⅡの大ヒットを経て現在に至るのである。
しかし、司郎は白石光男を父であると信じ尊敬している裕也のこと、世俗のことなど全て超越した天使のような存在である陽花里のことを考えれば、自分が彼らの母と関係のあった人物であると名乗ることができなかった。
そして司郎は、陽花里の治療費を、裕也に気持ちの負担を掛けない方法でもって用立ててやりたいと思い、それを最初は裕也の技術を担保とした貸付として、そして今は別の方法で用立て続けているのである。
「シロちゃん・・・。」
陽花里の呟きで現実に戻った司郎は、陽花里の夢を叶える決意をする。
(つづく)
登場人物紹介(第13回~第18回)
・白石光男(しろいし・みつお 31年前に死去 享年30歳)
大学院の研究員で、当時は日々進歩発展していたパーソナル・コンピューターの研究一筋の生活を送っていたが、先輩に連れられて行った札幌「すすきの」にあるラウンジで恵里佳と出会い、やがて結婚した。
しかしその後、いろいろな原因から重度の鬱状態となり、長男の裕也が生まれる6ヵ月前に自ら生命を絶ってしまうが、裕也は今も父のことを深く尊敬している。
・白石恵里佳(しろいし・えりか 12年前に死去 享年38歳)
白石光男の妻で、裕也と陽花里の母。
光男との結婚後も、薄給の研究員であった光男の生活を支えるためにラウンジでの勤務を続け、光男の死後も一人で裕也を育て上げ、大学に進ませた。
28歳の時に陽花里を出産したが、父の名を公表することなく、難病であることが判明した8歳の陽花里に想いを残しつつ、子宮癌で命を落としてしまう。