Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第17回

第2章:ペディグリー 第5話

司郎の意識は30年前に飛ぶ。

当時の司郎は、JRAの馬主になるための資産を稼ぐため、本当に懸命に働いていた。

もちろん司郎には、桜子という妻と、駒子と駿馬という子が居る家庭があったし、そんな中での恵里佳との関係は、司郎の中では「ホステスと客」といった、自己中心的な軽い気持ちからのものでしかなかったのである。

白石光男の死と恵里佳の出産を知った時、まだ40歳になったばかりだった司郎は、その現実に向き合うことができなかった。

しかし、恵里佳は気丈であり、一人で裕也を育てると司郎に宣言し、裕也には父・光男が素晴らしいコンピューター技師であったことを語り続けた。

たが、責任を感じていた司郎は、裕也には知られないようにしながら、折に触れて恵里佳と会い、金銭的な援助をしていたのである。

そして10年後に生まれたのが、今まさに目の前に居る陽花里なのだ。

本当は司郎にとっても恵里佳にとっても、陽花里は必ずしも望んで授かった子ではなかったのであるが、恵里佳は自分にそっくりの長女を溺愛し、司郎からの認知の申し出を断り、自分一人で育て上げると司郎に宣言したのである。

陽花里が生まれた頃、司郎はいよいよJRAの馬主になる資格を得て有頂天であった。

その分、恵里佳に対する配慮を欠くことも多くなってきて、やがて恵里佳は別の男性と交際するようになり、司郎から離れていった。

司郎は、そうなってしまってから、初めて自分にとって本当に大切なものを、しかも自分勝手な思いや我が儘を原因として、遂に失ってしまったことに気付く。

自分は白石光男という人物の人生を奪ってしまった。

なのに自分は、馬主になりたいという自分だけの夢のために勝手気儘に行動し、自分の家庭も含めて、本当にいろいろなものを犠牲にし続けてしまっている。

だから、恵里佳からの別離を告げる言葉に、何も言い返すことはできなかった。

恵里佳との別離の後、陽花里が6歳、裕也が16歳の時、司郎は初めて購入したホワイティドリームを、どうしても二人に見せたいと思い、自分は姿を隠しながら、知人を通じて彼らを牧場に招待したのである。

しかし、後でそれを知った恵里佳は、住居や連絡先を変えて、司郎との接点を完全に絶ってしまった。

それから数年後、司郎は愛馬ホワイティドリームを失って失意の底にある時、競馬仲間からある情報を得る。

「ミラクル・スタリオンという競走馬育成ゲームがあるんですが、それにオグリインパクトのライバルの1頭ということで、ホワイティドリームが出ているんですよ。もしかして恵庭オーナーの関係者の方が作られたのですか?」

そして、そのミラクル・スタリオンが大手ゲームソフト会社主催のコンテストで大賞を受賞し、その制作者の名が「白石裕也」であることを知った司郎は、おそらく生涯初めて経験するくらいの大きな驚きに包まれる。

(つづく)