Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第15回

第2章:ペディグリー 第3話

アラジール症候群2型。

厚生労働省が指定難病としている疾患の一つで、我が国には300人くらいの罹患者が存在するようであるが、原因も治療法も現時点では不明な部分が多く、特に2型と呼ばれているものは重度の腎臓障害を伴うので、不治の病の一つと考えられている。

陽花里と裕也の母の名は白石恵里佳。

12年前に38歳で死去している。

貧しい家に生まれた恵里佳は、両親に捨てられてから一人で職を転々とし、札幌の繁華街・すすきのにあったラウンジに勤務していた1984年、大学院の研究者であった白石光男と出会った。

光男は、当時は日々進歩していたパーソナル・コンピューターの研究一筋の生活を送っていたが、先輩に連れてきてもらった初めてのすすきの、そのラウンジで恵里佳を見初め、やがて二人は結婚し、恵里佳は妊娠して裕也を宿した。

しかし、ある日を境に光男は重度の鬱状態に陥り、裕也が生まれる3ヶ月目に自ら命を絶ってしまう。

当時の光男は研究にも行き詰まり、学内での人間関係にも悩んでいたことから、誰もがそれを原因とする衝動的な死であると思った。

夫を失った恵里佳は、生まれてきた裕也を育てるため、引き続き夜の仕事に就きながら、裕也を大学まで進ませるのであるが、裕也が生まれた10年後、父の名を誰にも告げないまま陽花里を産むことになる。

陽花里が難病に侵されていることを知るのは、その5年後であった。

さらに3年後、陽花里が8歳の時に、恵里佳は子宮癌で命を落とし、裕也と陽花里の兄妹は天涯孤独になってしまい、裕也は陽花里と共に開発した「ミラクル・スタリオン」を持って大手ゲームソフト会社主催のコンテストに参加して大賞を受賞、そして兄妹の前に現れたのが恵庭司郎だったのだ。

裕也は未だに時々司郎に向かって言う。

「僕の父は、今で言うパソコンの黎明期を支えた優秀な技術者でした。僕は偉大な父の血を受け継いでソフトウエアの仕事ができることを誇りに思い、それを支えてくださっている恵庭会長には感謝をしても感謝しきれないくらいの気持ちで一杯です。」

陽花里は眠っているように見えた。

陽花里はもう20歳になる。

しかし、病気を原因とする成長障害からか、体の大きさは子どものままのように見える。

だが、確実に陽花里の顔は母である恵里佳の面影を宿すようになってきていた。

「恵里佳・・・。光男さん・・・。」

司郎は心の中で二人の名前を呟いた。

(つづく)