Beautiful Dreamers
~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第14回
第2章:ペディグリー 第2話
司郎は思う。
かつての自分は、JRAの馬主になりたいという一念で、自ら居酒屋を経営して懸命に働き続けていたのだが、今の自分は何でも人任せ、W社の経営は大川たちに、商品開発は白石と渋井たちに任せており、思えば子育てや家庭のことも桜子に任せっきりだったし、自らで動くことなど何もなくなっていた。
そもそも競馬だって、働くのはサラブレッドや騎手や調教師などの競馬関係者であって、馬主やファンは見ているだけで直接的には何もしないし、何もできはしないのだ。
しかも、自分は多くの人の人生に悪い影響を与えてしまってきたのかも知れない。
長女の駒子の夫であった邦彦には、自分の憤りを直接ぶつけてしまった結果、駒子は夫を、幼い天馬は父を失うことになってしまった。
長男の駿馬には、騎手になれという司郎の夢を無理矢理に押し付けた結果、互いに赦し合えない親子になってしまった。
妻の桜子は、自分との結婚前に子どもを作っていたことを隠し通し、それが今になって財産の凍結という反響を起こしているが、きっとそれにも深い理由があったのだろう。
もしかしたら不倫を原因で会社から冷遇されている池添も、内心では司郎を恨んでいるかも知れない。
そしてもう一人、司郎にはどうしても罪の告白をしなければならない、今は亡き人が存在する。
その人のことを考えると、自分が桜子や池添に何か言える立場にあるのだろうかと、司郎は顧みて悔恨の情を抱く。
実際のところ、大川だって、白石や渋井だって、司郎のことを良く思っているのかどうか、今は分からない。
しかし、一応は幼少時からのクリスチャンである司郎は思う。
「生きている意味のない人間はいない、信じるしかない、聖書の何処だかに書いてあったような・・・。」
ヨハネの福音書第14章第1節
”Don’t let your hearts be troubled. Trust in God, and trust also in me.”
“あなたがたは、心を騒がせないがよい。神を信じ、またわたしを信じなさい。”
「そうか、神を信じるしかないのか。」
司郎は納得した表情になり、車のハンドルを握っている。
行先は、白石陽花里が暮らしている療養施設「清華苑」であった。
司郎は、施設の職員に陽花里が寝ているかどうか確認し、寝ていると聞いて部屋に向かう。
陽花里はいつものように静かにベッドに横たわっていた。
枕元には、陽花里が大好きなアニメのフィギュアが何体か置かれているが、時々入れ替わっており、それが渋井護の仕業であることを司郎は知っている。
司郎が陽花里の顔を確認して、そっと帰ろうとした時、陽花里が小さな声で呟いた。
「お父様・・・。」
(つづく)