Beautiful Dreamers

~夢と愛に想いを賭けた人たちの群像劇~ 連載第13回

第2章:ペディグリー 第1話

サラブレッドの発祥は18世紀に存在した「バイアリーターク」「ダーレーアラビアン」「ゴドルフィンバルブ」という、たった3頭の牡(男)馬から始まり、母系を中心に一族が構成される。

すなわち、牝(女)馬が、種牡馬と呼ばれる、ごく一握りの特に優秀な牡馬の種付けを受けて仔馬を産み、競走馬としての輝かしい血統(Pedigree)が受け継がれて行くのだ。

「ドリームメイカーの2015、父オグリインパクト」と呼ばれる1歳馬は、母の名がドリームメイカー、出生年が2015年、そして父馬がオグリインパクトということになる。

そして、今は亡きホワイティドリームの幼名は「ドリームメイカーの2001」だった。

落ち着きを取り戻した司郎が呟く。

「ホワイティドリームの弟馬か・・・。しかし母馬はもう20歳近くになっている筈だから、最後の仔ということなんだろうな。しかし、どうしてオグリインパクトが父馬なんだ。」

司郎は佐倉に電話をかけた。

佐倉にとっては予想通りの反応だったのだろう、含み笑いをしながら答える。

「会長、驚くと思ってましたよ。ドリームメイカーは、2001年のホワイティドリーム以来、市場に出るレベルの仔馬を産んでいませんでした。でも牧場の人たちは大切に世話をし続けていて、17歳になった一昨年の段階でも凄く元気だったんです。そこに舞い込んできたのが、オグリインパクトの種付権が1回分、ある牧場の倒産で売りに出されているという話だったらしいんです。それにドリームメイカーの牧場関係者は最後の夢を賭けたということなんですよ。会長、この話を捨て置けると思いますか?」

司郎は、僅かの時間に様々な想いを馳せて考えていた。

「佐倉さん、今の私には競走馬を買えるだけの資力はないかも知れない。でもホワイティドリームの弟馬には会ってみたい。だからセレクトセールには行かせてください。」

司郎は、何かが動き出すような、本当に久しぶりにワクワクする気持ちになっていた。

しかし、佐倉との電話を切った司郎は、会社の経営状況を思う。

W社は確かに、一度は上場直前にまで成長したが、ヒット商品である「ミラクル・スタリオンⅡ」の後継商品が開発できていない今の経営状況は停滞し、司郎からすると意に沿わない商品である高齢者見守りシステムである「まるも君」が売上の主力となりつつある。

また経営状況悪化の、もう一つの原因が、司郎が趣味で始めたようなホッカイドウ競馬の法人馬主としての競走馬への投資が大きな赤字になっていたことであった。

今では大川や駒子の意見に押されて、馬主事業は縮小し、ルミエールダンサーを含めて3頭しか保有していないが、彼らは賞金を稼いでこないし、世話代だけでも馬鹿にできない金額である。

さらに、司郎は引退した競走馬を殺処分にすることができず、個人で所有している小樽郊外の空き地で、人を雇って世話をさせているなど、周囲から見れば明らかに無駄遣いでしかない行動を続けているのだ。

(つづく)

登場人物紹介(第12回~第13回)

・佐倉進(さくら・すすむ 58歳)

名古屋市に本店を置く投資会社である株式会社シュリンプ・フライ・キャピタルの創業者で代表取締役。

堅実な投資判断でもって、何社もの投資先の株式公開を実現してきたが、W社に関しては既に株式公開を断念しており、今は半値になってしまった投資株式の的確な処分を検討している。

恵庭司郎とは競馬仲間として個人的な付き合いがある。