二次元セミナー~親愛信託活用マニュアル講座~第38回

P169~171:「親愛信託事例1-8障がい者等支援信託」から(初版版ではP165~167)

【この手法で対応できる問題】

信託法が改正された当時、高齢者のための認知症対策信託と並んで「福祉型信託」として語られていたのが、障がい者支援系の信託でした。

しかし、委託者となる高齢者自身が財産を所有している認知症対策信託とは違い、財産を所有していない障がい者を支援するという信託は、財産を受け取る方に行為能力がないという形態となるので、信頼できる受託者を確保する必要があり、また後見や扶養との関係が難しく、さらに「次の次」を決めておかなければならないため、責任を取りたくない専門家が好きな死亡終了型にできないという理由もあるのか、実際にはあまり使われていない気がします。

認知症対策信託が携帯電話で言えば通話機能みたいなものとすれば、確かに障がい者系の信託は「アプリをダウンロード」くらいの難しさはありますから、全く携帯電話の構造を理解していないユーザーには、このあたりから先は使いこなせなくなってくるのでしょうね。

【事案の概要】

このまま何も対策をしなければ、Aさん夫妻の財産は自動的に長男と次男に半分ずつの割合で相続されてしまい、障がい者でかつ未成年者でもある次男Dさんに渡った財産については、やがては後見人と家庭裁判所の関与無くしては一切何もできないという状況に陥ってしまいます。

もちろん長男Cさんは弟であるDさんのために両親から貰った財産を適切に使うとは思いますが、Cさんにも自分の生活があるでしょうし、両親と同じようにDさんの世話をしろというのは無理でしょうから、両親にとっては心配が尽きないということになります。

このケースでは、Dさんが未成年者ですから、成年に達するまでは両親が親権者としてDさんの法定代理人として活動できますが、その後は成年後見人を選任する必要が生じます。

両親としては、長男のCさんを後見人に指定したいところですが、Dさんの成人後に法定後見を申し立てた場合、必ずCさんが選任されるとは限らず、見ず知らずの司法書士や弁護士が就任してくる可能性もあり、ますます両親の心配を増すのです。

【親愛信託以外の方法を利用した対策】

もしDさんに行為能力があるなら任意後見契約を締結することが考えられますが、このケースでは困難でしょう。

ただ、両親が揃っておられますので、両親の片方がDさんの親権者として、もう片方と任意後見契約を行うという方法は考えらえます。

そうすれば、Dさんが成人した後に任意後見をスタートさせれば、一応は両親の希望通りの体制を作り出すことは可能になるかも知れませんが、やはり不安定さは残ります。

【親愛信託を利用した提案】

仕組み自体は単純な受益者連続型信託で、長男Cさんが受託者、二次受益者は長男と次男、三次受益者を長男としておき、次男の生存中は信託財産で次男の世話をして、最終的には長男の血筋に財産が承継されるというものです。

ここで難しいのは、行為能力のない次男に対して、受託者である長男がどのような形で受益権という財産権を行使させるかの問題です。

民法と信託法との区別が付いていない専門家は簡単に「扶養義務の履行」と契約書に書いておけば良いなどと安易なことを言っているようですが、信託受益権と扶養とは無関係であり、そのような文言があっても無効です。

最も分かり易いのは、Dさんに後見人を付けて受託者から後見人に金銭を給付する方法ですが、その他にも実情に合わせた給付方法が考えられ、それを最初から信託契約書上に反映しておかなければならない(すなわち「アプリをダウンロードしておかなければならない」)というところが、障がい者等支援信託の難しさでもあるのです。

【親愛信託を利用するメリット】

Dさんへの給付の方法を工夫しさえすれば、受託者のCさんは法的権限に基づいてDさんの世話を的確に行うことができますし、Dさんの後見人も財産管理の手間がなくなるので、本来の後見業務に専念することができます。

本来の後見業務とは、未成年者に対する親権者のように、契約の代行とか取消権の行使とか、身内として被後見人の世話をすることであり、多くの専門家が勘違いしているように、報酬が貰えて美味しい財産管理だけが後見人の仕事ではないのですから、後見人の仕事から財産管理を外してあげられる親愛信託は後見人にとっても歓迎すべきことなのです。

ごく一部の、後見を利権と考えている専門家には耳の痛い話だとは思いますが。

それでは、また明日。

(つづく)

≪本日の学習ポイント≫

  • 認知症対策信託と障がい者支援信託とは、同じ福祉系信託でも内容や目的が異なる。
  • 障がい者である受益者に対する信託受益権に基づく給付行為を設計するのは難しい。
  • 後見人の業務から財産管理を外すことは、後見制度の趣旨に合った正当な行為である。

雑感

地方競馬場巡りですが、1回目に兵庫県の園田競馬場に行った2年前の9月は、関西に何度も台風が襲来した年で、最寄りの駅まで行ったら「中止」の貼り紙があって、生まれて初めて競馬の中止を体験しました。

そして後日、出直して行った時が、ちょうど15個目の最後のスタンプを押してもらう日になり、スタンプ受付の周りに集まった知らないおじさんたちが、私の全競馬場制覇を祝ってくれたものです。

その意味では、最後が園田競馬場になって良かったのかも知れません。

私は大阪出身なので、園田競馬場は近かったのですが、昔は地方競馬場と言えば柄の悪い人たちや、「ノミ屋」と呼ばれる闇馬券を売る、今でいう反社会勢力の人たちの集まりみたいなイメージがあって、あまり近付いたことはなかったのですが、今は様変わりですし、現在の無観客競馬が今後も続けば、ますます健全化するのではないかと思っています。

プロ野球やJリーグとは違い、競馬は入場料収入が重要視されていませんし、馬や騎手にとっては無観客の方が本来の実力を発揮できて、レース自体は面白くなっているみたいですし、コロナ騒動の思わぬプラス効果なのかも知れません。